烈小鈴のお話

Last-modified: 2020-11-08 (日) 03:52:54
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 生徒会室の隣室――かつては第二会議室と呼ばれていた――は、今現在はお仕置き部屋、もしくは拷問部屋
と呼ばれている。
 生徒会長の梨華=ファルファンが自分の趣味のために搬入させた拷問器具や拘束具が所せましと並べられて
いるからだ。ちなみにこの部屋は梨華専用で、校則違反者用の懲罰室は別にある。
 学園が平和だった頃はほとんど使い道がなく、生徒会の備品庫として物置代わりにされていたこの部屋も、
梨華が生徒会長として君臨して以来は毎日のように使用されていた。
 この部屋に連れ込まれた者のたどる運命は一つ。
 教育、躾、罰ゲーム、お仕置き、拷問、処刑……後ろにつく言葉は色々あるが、前につく言葉は全て同じ。
 神那津川学園の絶対権力者、梨華=ファルファンに逆らった者は、生まれてきた事を後悔するくらい凄絶な
くすぐり地獄が待っているのだ――

「ひゃひひひひッ! わ、わかた! わかたヨ! ははは反省したアルから……! もう……! あははッ!
もうやめるヨロシひひひひひひっ!!」
 拷問部屋に設置されたくすぐり用の拘束台にハリツケにされた烈小鈴(リー・シャオリン)は、涙を流して
激しく笑い悶えながらくすぐりの停止を訴えた。
「お前の“反省”は聞き飽きたよ。今日という今日はもう許さない。気が狂うまでくすぐり続けてやるよ。
何か言い残す事があったら聞いておこうか?」
 自らの手で小鈴をくすぐり責めにしながら、梨華はニヤニヤと笑った。
「…… ……!」
「え? 何だって? 聞こえるように言ってくれないかな?」
 梨華は小鈴の腋の下のくぼみに指を這わせながら、小鈴の口元に耳を近づけた。その直後――
「ふぁああ~ッ!?」
 ノリノリでくすぐっていた梨華が突然悲鳴を上げてその場にへたり込んだ。小鈴が梨華の耳に優しく息を
吹きかけたのだ。
 不意打ちを受けてしゃがみ込んだ梨華を見下ろしながら、小鈴が楽しげに笑った。
「ハハハ。オマエ耳が弱いアルナ。今の声とてもかわいかたヨ~?」
 小馬鹿にしたような口調でそう言われた梨華は顔を真っ赤にして小鈴を睨む。
(こいつ……! どうしてボクに屈しないんだ……!)
 梨華が小鈴にお仕置きをするのはこれが4度目だったが、小鈴がくすぐりに屈した事は一度もなかった。
反応を見る限りくすぐったがっているのは演技ではなさそうだし、くすぐられて悦んでいる風にも見えない
のに、何故かお仕置きされる事を面白がっている。苦痛を好む変態なのだろうか。
「もういいよ! お前みたいなドMに付き合うほどボクは暇じゃないからね! 真、後始末しといて!」
 拗ねたようにそう言って、梨華は足早に部屋を出て行った。

 耳に息をかけられた時にびっくりして危うくオシッコを漏らす所だった……などとは言えなかった。

「梨華はくすぐりが上手アルネ~。今日のは本当に苦しかたヨ」
 真に拘束を解いてもらった小鈴はそういって笑った。革のベルトで固定されていた部分を軽くマッサージ
しながら上履きを履く。
「――何故ですか? 何故小鈴さんは、わざわざお嬢様を怒らせるような事ばかりなさるのですか?」
 普段は余計な事を喋らず、淡々と梨華の命令に従うだけの真が、珍しく小鈴に話しかけてきた。
 真が見ている限り、小鈴は梨華に憎しみを抱いているようには見えないし、反抗心を持っている風でも
ない。それなのに小鈴はことあるごとに梨華を挑発し、そのたびにお仕置きをされている。それが不思議で
ならなかったのだ。
「小鈴さんは……その、お仕置きをされるのが好きなのでしょうか……?」
「ハハ、好きではナイヨ。くすぐられるの苦手アル。だからとても頑張てるネ」
「だからそれは何故……」
「――この学校のみんな、梨華を怖がて近づかないネ。話しかけないネ。だから梨華いつもひとりぽっちヨ。
ひとりぽっちはつまんないヨ。ホントは梨華さみしいヨ。だたらワタシが遊び相手になてやるネ」
「――!」
 小鈴の言葉は真に衝撃を与えるに十分だった。
 真はいつでも梨華の側にいた。精一杯梨華に尽くしてきた。真は梨華に対して最大の敬意と信頼と愛情を
持っているし、梨華も自分を信頼してくれていると信じている。いままでそうしてきたように、これからも
ずっと、梨華の為に出来る事はどんな犠牲を払ってでもするつもりでいる。
 だが真には分かっていた。どんなに努力しても、どんなに時間を費やしても、自分は決して梨華の“友達”
にはなれない事を。自分一人の力では梨華を孤独から救ってやれない事を。
「……小鈴さんは、お嬢様のためにそんな無茶をしてまで……」
「ワタシは兄弟いないガ、中国いたころは近所の悪ガキどもの遊び相手をしてたヨ。子供の遊び相手するのは
バイタリティ必要アルけど、それでも子供には遊び相手が必要のコト。ワタシ梨華よりお姉さんアルからネ」
 小鈴は簡単に言うが、梨華はその日の気分次第では本気で相手をくすぐり殺しにかかる事もある。実際に
何人も病院送りにしており(各方面に金を掴ませてその事実をもみ消しているが)、子供同士のくすぐりっこ
とはワケが違うのだ。
 小鈴だってそれを知らない訳ではない筈なのに、お仕置きを覚悟の上で梨華に近づき、あえて馴れ馴れしい
態度を取る事で距離を縮めようとしている。
 真は小鈴の事を無謀なお調子者だとばかり思っていたが、すべて計算の上でお調子者を演じていたのだと
したら恐るべき女性だと言わざるを得ない。あの梨華でさえ小鈴の真意に気付かないのだから。
「小鈴さん……ありがとうございます」
「ワタシが勝手にやてるコトネ。真が礼を言うコトではナイヨ」
 小鈴は手をひらひらと振って見せ、拷問部屋の出口へと向かう。長い三つ編みが揺れ、トレードマークに
なっている鈴の髪飾りが可愛らしい音を立てた。
 その後ろ姿を、真は多大な敬意と僅かな嫉妬心をもって見送ったのだった――

 翌日も拷問部屋からは笑い声が響いていた。
「あひひひひっ! 梨華様ぁ! おね……ッ! お願いですぅうふふはひゃははははッ!! こんなの……
ごんなのもうやめでぇええええッ! 二度と……! にどどざがらいまぜんがらぁあああああッ!!」」
 梨華の激しいくすぐり責めを受け、涙と鼻水を垂れ流しながら笑い悶える一人の生徒。
 梨華を子供扱いして馬鹿にするような態度を取ったため、梨華の怒りを買ったのだ。

(まったくコイツといいあの中国人といい、このボクをチビ呼ばわりするなんて許せな――)
「ぃよーうチビスケ! オマエは相変わらずちんちくりんアルナ! 昨日からちとも成長してないネ」
 拷問部屋のドアが勢いよく開き、聞きなれた――聞き飽きた声が梨華に浴びせられた。小鈴である。生徒の
誰もが恐れている拷問部屋に、呼ばれもしないのにやって来る物好きは彼女だけだ。
 梨華はもう小鈴の挑発には乗らない様にしようと昨日心に決めたばかりだったのに、今日の小鈴の発言には
無視出来ない部分が山ほどあったため、思わずムキになって反論してしまう。
「お、お前だってちんちくりんだろ! ボクより年上のくせに貧乳だしさ! 恥ずかしくないわけ!?」
「こう見えてもチビスケよりもスタイル良いアルネ~。胸が重くて肩がこるヨ~」
「ウソつけ貧乳! ボ、ボクだって大人になったらもっと大きくなるんだから……!」
 自分の胸を両手で押さえた梨華は、珍しく自信なさげに言った。ファルファン家にはどういうわけか貧乳の
遺伝子が受け継がれていて、ファルファン家の女性は例外なくぺったんこなのだ。
「ほほーう? それは楽しみアルネ。まあその頃にはワタシもグラビアアイドルみたいになてるけどナ」
「なるか! お前なんか今がピークだよ!」
 梨華は、すっかり小鈴のペースに乗せられて子供っぽい言い争いを始めた。そこには冷酷非情な天才少女の
面影はない。真ですらあまり見る事の出来ない梨華の素顔があった。
(すごい人だ……本当にお嬢様との距離を縮めてしまった……)
 二人のやりとりを眺めながら、真は改めて烈小鈴という女性に敬服した。
 梨華の残念な体格に言及して無事でいられた生徒は少ない。梨華にとっては最大のコンプレックスなのだ。
その梨華をチビスケ呼ばわりした小鈴などくすぐり殺されてもおかしくはないはずなのに、梨華はどこか彼女
に対して心を許しているフシがある。うるさいとは思っているだろうが、憎いとは思っていないらしい。
 それは小鈴が高校生の平均を遥かに下回る体格の持ち主だからに違いない。小鈴が梨華に対して言う言葉は
全て小鈴自身にも当てはまる為、絶対に厭味に聞こえないのだ。小鈴はそれが分かっているのである。

「ふん……! もうやめた。今はこいつに制裁を加えるのに忙しいんだ。お前の相手なんかしてらんないよ」
 梨華は拘束台にハリツケにされた女生徒を指差した。梨華が小鈴と言い争いをしている束の間だけくすぐり
から解放されていた女生徒は、くすぐり責めの続きが始まると知って狼狽する。
「制裁とは穏やかでナイナ。コイツは何をしたアルカ?」
「こいつはボクを馬鹿にしたんだ……! 幼児体型の生意気なチビだって……!」
「ヒドイ事をいうネ! 身体的欠陥をあげつらうのは人として最低アルヨ! なあチビスケ!」
「お前が言うなよ!!」
 梨華の全力のツッコミが拷問部屋にこだました。

「さ~て、ちょっと邪魔者が入ったけど、まさかこのまま許してもらえるかも、なんて思ってないよねぇ?」
 指をワキワキと蠢かしながら、梨華はハリツケにされた女生徒に近づいた。
「梨華、ちょと待つヨロシ」
 今まさに梨華の指先が女生徒の身体に触れようかという瞬間、小鈴が突然待ったをかけた。
「何だよ? これ以上ボクの楽しみを邪魔すると本当に許さないぞ?」
「いやいや、オマエにヨイ事を教えてやろうと思てナ。天才のオマエもきっと知らない事ヨ?」
「……何……? ボクの知らない事だと……?」
 小鈴は悪戯っぽく笑うと、訝しげな顔をしている梨華の隣に立った。
「人間の身体にはナ、無数のツボがあるアルネ。その中には指を突き立てられると大変くすぐったいツボが
全部で108穴存在するとされているのヨ。ワタシはその内の48穴をみつけたアルネ」
 小鈴はそう言うと、ハリツケにされた女生徒の左の腋の下に右手の人差し指を軽く押し当てた。
 その途端、女生徒は激しく身悶えして狂ったように笑いはじめた。
「ふひゃあはははははははッ! や……! やめへへへッ!! シャオ……! おねが……ッ! 指ぃ!!
指どけてぇええええ!!」
 小鈴は人差し指一本しか使っていない。しかもその指を一切動かしていないというのに、女生徒はまるで
激しくくすぐられているかのように笑い悶えている。その様子を梨華はまるでキツネにつままれたような顔で
眺めていた。
「これは……どうなってるんだ……?」
「コイツのくすぐったいポイントを押さえているだけヨ。この指を少しでも動かしたら死ぬほどくすぐったい
ネ。コイツの身体は本能的にそれを知っているのヨ。だから指で押さえられただけで神経の情報伝達が忙しく
なて、筋肉が勝手に痙攣するアル。それが無数の小さな手でくすぐられているような錯覚を覚えさせるのヨ」
 にわかには信じがたい話だが、実際に小鈴が指をどけると女生徒は悶えるのをやめてグッタリとなった。
「へぇ……どれどれ?」
 梨華は見様見真似で女生徒の左の腋の下に指を立ててみる。だが女生徒はピクンッと身体を震わせただけで
それ以上の反応を示さない。梨華は小鈴の方を見て意見を求めた。
「人間の神経はとても細かく張り巡らされているのコトアルから、押さえるポイントがちょとでもずれると
効果はないのヨ。それと、チビスケはちょと力を入れすぎネ。押すのではナイヨ。押さえるのヨ」
 小鈴はメカニズムとコツを丁寧にレクチャーし始めた。それを見て慌てたのは目下実験台にされている
女生徒である。手加減を知らない梨華がこんな危険な技を身につけたら自分も学園もお終いだった。
「ちょ……! シャオ! 梨華にそんな事教えるなんでどういうつもりひひぃッ!?」
 女生徒は小鈴につっかかろうとしたが、その言葉は腋の下に奔るくすぐったさによって中断させられた。
試行錯誤を繰り返す梨華の指がいい感じにツボをとらえたらしい。
「梨華“様”だろ? 今のでコツが分かったよ。なるほど、これは面白い。研究する価値があるよ」
「喜んでもらえて何よりネ。だたら両腋の下にある残り9穴も教えてやるヨ」
(じょ、冗談でしょ……? 冗談だと言って……)

 残念ながら冗談ではなかった。

「ひぎぃいひひひはははははははッ!! やめで! もうやべでぐだざひひひッ!!」
 女生徒の懇願と笑い声が拷問部屋に響きわたった。女生徒は革製の拘束具を引きちぎらんばかりの勢いで
暴れて必死の抵抗をする。女生徒は制服を剥ぎ取られて下着姿にされていた。梨華が『服の上からだとツボの
位置が分かりにくい』と言ったため、真がハサミを使って女生徒の制服を切り裂いたのだ。
「暴れるなよ馬鹿。指がツボから離れるだろ」
 梨華は小鈴に教えてもらったばかりの、左右の腋の下に5穴ずつある“くすぐったいツボ”を10本の指で
押さえていた。梨華は今までに数えきれない程の人間をくすぐってきた実績があるため、大変飲み込みが早く
すぐにその技を自分のものにした。
「あひひひひひっ!! 許してぇ!! シャオお願いぃひひっ! 梨華を止めてぇえええッ!!」
 梨華に懇願してもやめてもらえそうにないと悟った女生徒は、小鈴に助けを求める。
 だが小鈴はフンと鼻で笑うと、いつものキャラクターからは想像もつかないような冷たい口調で言った。
「そのお願いは聞けないネ。オマエは梨華を侮辱して傷つけたのヨ。子供相手に大人げないとは思わなかた
アルカ? 梨華よりもお姉さんなのに、梨華の気持ちを考えてやれなかたアルカ? そんな奴は人間失格ヨ」
 小鈴の言葉には慈悲の欠片もなかった。
 身長や体格は遺伝に左右される部分がほとんどで、生まれた時点である程度は決まってしまうものだ。また
たとえ小さくても親から貰った大切な体だ。
 それを『努力した訳でもなく偶然立派な体で生まれて来ただけの奴』に嘲笑される事がどれほどくやしくて
どれほど悲しいか――小鈴には梨華の気持ちが痛いほど分かるのだ。
 梨華は少し意外そうな顔で小鈴を見つめていたが、やがて表情を和らげた。
「ふん、お前に同情なんてされたくないよ。――でも、ボクはお前のそういうところ、嫌いじゃないぞ」
「謝々。ではもっとヨイ事を教えるヨ。チビスケ、耳を貸すヨロシ」
 小鈴が梨華に耳打ちしようと近づくと、梨華は反射的に飛びのいた。
「み、耳に息を吹きかけるつもりじゃないだろうな!?」
 昨日の事を思い出して、梨華が珍しく狼狽する。
「ハハハ、昨日は悪かた。もう二度とやらないネ。チューゴクジンうそつかないアルヨ」
「どの口が言うんだよ……」
 梨華は警戒して身構えながらも、小鈴が耳元に近づく事を許した。
「極意を教えるヨ。このツボはナ…… …… …… ……」
 小鈴の耳打ちを頷きながら聞いていた梨華。やがてその口元がニタァ~っと歪んだ――

(……虎に翼が生えたようなものだなコレは……)
 真は梨華の様子を眺めながら、そんな事を考えていた。
 くすぐり責めが大好きな梨華に、特殊なくすぐりテクニックを次々と伝授する小鈴。このまま放っておけば
学園は大変な事になるに違いない。
 もっともそれは真の知ったことではなかった。
(小鈴さんはいいお友達になってくれそうだし……お嬢様が楽しそうだから私としては何の問題もない)
 今までに例がないほどはしゃいでいる梨華を、真は微笑を浮かべたまま見守っていた。

「……! ……ヒッ……!! やめ……ッ! し……! 死ぬ……!!」
 梨華のくすぐり責めに悶え苦しむ女生徒。だがその口からは言葉がほとんど発せられない。
 あまりのくすぐったさに呼吸をするだけで精一杯で、笑い声すらあげられないのだ。
「ホラホラ、幼児体型の生意気なチビに処刑される気分はどうかなぁ?」
 梨華の両手が女生徒の腋の下を徹底的にくすぐっている。その指の動きは、小鈴のレクチャーのおかげて
格段に進化していた。
「アイヤー……今更アルが、オマエはくすぐりの天才アルナ……」
 小鈴が梨華に伝授した極意は二つだ。
 ツボから指を離さずに指先だけを動かせば、ただツボを押さえるだけよりずっと効果的だという事。
 ツボだけを責め続けるより、通常のくすぐりをまじえた方が、より神経が混乱するのだという事。
 その二つを教えただけで、頭のいい梨華は最も効果的なくすぐり方を瞬時に編み出した。これは理屈さえ
分かれば誰でも真似が出来るというものではない。日頃からくすぐりに慣れ親しみ、しなやかで器用な指先を
持つ梨華でなければこうは行かなかっただろう。
「ぐる……じい……!! やめで……! あひひ……ッ! ギブ……ギブ……!!」
「ん? ギブアップ? ボクの辞書にそんな言葉はないなぁ~」
 梨華にくすぐられ続けている女生徒の全身ががくがくと痙攣し始めた。小鈴の見立てでは割と危険な状態
だったが、梨華が手を緩める気配はまるでない。
「末恐ろしいチビスケアル……まあワタシがくすぐられている訳ではナイからどうでもヨイけどナ」
「たすけて……シャオ……ひひッ!! だずげ……!!」
 再び小鈴に助けを求める女生徒。だが――
「ゴメンナサイヨー。ワタシニホンゴワカラナイヨー」
 小鈴は全く取り合わなかった。それどころか、
「チビスケ、オマエにあと10穴教えるからよく見ておくヨロシ。残りは宿題ネ」
 そう言って、女生徒の脇腹に10本の指を立ててくすぐり始めた。
「ひぁあ!! ……ァ! カヒ……ッ!! 息が…… 出来な……ひひ……っ!!」
 梨華に腋の下を、小鈴に脇腹をくすぐられ、女生徒は激しく暴れはじめた。くすぐったいツボを20箇所同時
に責められて耐えられる女の子はいない。
 しかも、おなかや脇腹へのくすぐりは横隔膜を激しく痙攣させ、呼吸を不自由にさせる効果がある。
 地獄の苦しみであった。
「……ひぎ……が…… ……!!」
 脳に酸素が行かなくなり、女生徒の意識が次第に遠のいて行く。そして――

「あーあ、高校生にもなってお漏らし? みっともないなぁ」
 梨華が嘲笑した。
 女生徒の太ももを伝って黄色い液体が流れ落ちていた。失神と同時に肛門括約筋が緩み、女生徒はガマン
していたオシッコを漏らしてしまったのだ――

 黒い全身タイツのような特殊スーツに身を包んだ生徒が数人呼ばれて後始末をはじめた。失神した女生徒を
運び出し、オシッコで汚れた床を熱心に雑巾で拭いている。
 特殊スーツの女の子たちは梨華の奴隷だ。彼女たちが着ている全身タイツは梨華特製のくすぐりスーツで、
これを着ている限り梨華には絶対逆らえない。梨華がポケットに忍ばせたリモコンを操作するだけで、全身を
覆うスーツが耐えがたいくすぐったさを与える仕掛けなのだ。
「ふふ……このスーツも改造しなくっちゃ。くすぐりに弱いツボを責める機能を実装すれば、ますます面白い
事になりそうだなぁ……」
 天才少女梨華の脳内では、はやくも設計図が引かれていた。

「ほいじゃあ、ワタシは部活があるアルから、そろそろ失礼するアルヨ。再見~」
 小鈴は三つ編みを揺らし、鈴の音を残して部屋を出て――いこうとした。
「再見じゃない! ちょっと待て!」
 梨華が小鈴を呼びとめた。
「お前がボクのくすぐりに屈しなかった理由が今分かったよ。お前は上手く身体を動かして、ボクの指がツボ
に入らないようにしてたんだろ?」
 結構本気でくすぐったはずなのに、小鈴だけはどうにも手応えを感じなかった理由を梨華はそう分析した。
「それでも苦しかたヨー。チビスケにはツボの事を教えてしまたアルから、次はもう耐えられないと思うネ」
 小鈴はあっさりと認めた。だが梨華は、小鈴をくすぐりの刑にかける事にはもう興味がなかった。
「そのツボの事をもっと詳しく知りたいんだよ。お前、ボクの生徒会に入らないか? お前は使えるよ!」
 梨華がこんな形で生徒を勧誘するケースは稀だ。基本的に自分以外は全員カスだと思っている梨華が、小鈴
の事を高く評価しているのだ。
「……面白そうアルナ。チビスケと組めば、108穴あるくすぐりツボを全部見つけられるかも知れないネ。
でも、ワタシは人に上に立つのは苦手アル。生徒会などというガラではナイヨ」
「生徒会の雑務なんてのはそのへんのゴミクズカスにやらせておけばいいよ。何ならお前は働かなくてもいい
からさ、ボクと組もうよ。ボクはお前の能力が欲しいんだ」
 梨華は、自分より高いくすぐり技術を持つ小鈴をどうしても味方に引き入れたかったのだ。
 小鈴は腕を組んでしばらく考え、やがてこう言った。
「――チビスケがワタシの出した宿題を解けたらナ。もし解けなかたら、耳に息を吹きかけるの刑アルヨ?」
「そそそんなのズルイぞ! もう二度としないって言っただろ? チューゴクジン嘘つかないって……」
「アイヤー、ワタシニホンゴワカラナイネー」
「くっそぅ……ムカツク……!」

 最後まで小鈴にからかわれて手玉に取られている梨華を、真はニコニコと眺めていた。
(小鈴さんと喋ってる時のお嬢様、とっても楽しそう……)

 その後、小鈴のおかげで梨華のくすぐり責めがより強化される事になるのだが、それはまた別の話である――


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