辛くて、苦しくて。甘くて、愛おしくて。
~・~・~
私は、いつもあなたに尋ねたくなる。
あなたにとって、『これ』は何?
私を鍛えるための『特訓』。
それは、あなたにとって、本当にそれだけのもの?
本当は、もっと邪な想いがあるんじゃないの?
私は、いつもあなたにそう尋ねたい。
もし本当に、あなたにそんないやらしい気持ちがあったら?
そしたら、私は……。
凄く、嬉しい。
――辛くて、苦しくて。甘くて、愛おしくて。――
~・~・~
「この特訓の御蔭で体力が付きました。ほんとうにありがとうございました」
それは、私のいつもの軽口。
目を細めて、頬を吊り上げて、平坦な口調でそんなことを言う。私は今ここで、飄々とした魔女を演じ、余裕のある大人の女性を気取ってみせる。
そう。それは、私の精一杯の強がり。
目の前のあなたは気付いていないでしょう? 私が、今の状況にとてもドキドキしていることを。これから行われることがとても恐くって、そしてそれ以上に、凄く楽しみにしていることを。
「そんなに卑屈にならないでください……」
すると、あなたはいつもそう返してくれる。
肩をすくめて苦笑するあなたは可愛らしい。
おっとりとした表情に、ふにふにと柔らかそうなほっぺ。まだまだ幼いあなたの顔は、女の子と間違えてしまいそう。
金色の髪はとてもしなやか、まるで一流の職人が毛の一本一本まで選別したかのよう。それなのに、頭のてっぺんからあほ毛がぴょこんと飛び出しているのが、何だか可笑しかった。
あなたは、小さな身体に纏った紳士服の襟を正すと、私をまっすぐに見つめて口を開いた。
「オネア様。これから、特訓を始めます」
幼いあなたの毅然とした振舞いに、私はいつもドキリとしてしまう。
私は、そんなときめいた心を隠すように、あなたの名前を呼んだ。
「ショロぉ~、本当に今日もするのぉ~……?」
「当然です。オネア様は、もっと強くならなければいけませんから」
「んぐぅ……」
私の言葉を一蹴。こればかりは『こなくそぉ』と呻いてしまう。
まっすぐに見据えるあなたの煌めく瞳が、磨かれた鏡となって私の姿を鮮明に映し出していた。
これでも見た目は悪くないと思っている。海色の瞳を包んだ眼は、あなたよりは少し釣り気味。しわも染みもない薄橙色の肌は、自分の容姿に自信を持たせてくれる。
けれど、赤褐色の髪の毛は、背中に伸びるまでの所々でぴょこぴょこと跳ねてしまっていた。少しだけ、お手入れを怠けちゃったかな?
私は、別段ダイエットとかには興味ない。それでも、お腹はたるまず、胸も中々の形と大きさを保っているのは、私が存外恵まれた身体の持ち主だからなのかもしれない。
だけど、あなたの瞳に映る私の服装を見ていると、少し溜息が出てしまいそう。タンスに入っていた、適当な白のタンクトップとジーンズ。次からは、勝負服のキャミソールでも出そうかな、そんなことを考えてしまう。
「あ、あの。オネア様……」
「んぇっ?」
濃翠色の瞳を通して自身の身体を省みていると、あなたの頬が少しずつ桃色に染まってゆく。
「そ、そんなにじろじろ見られると、少し、恥ずかしいのですが……」
「ぇ、あぁ。ごめんごめん」
――そんなつもりはなかったのだけれど――
私は、その言葉を胸の奥にしまい込んだ。
たどたどしく言葉を紡いでゆくあなたは、年相応に可愛らしくて、そして愛おしい。
私は、ついついあなたに意地悪をしてしまう。
「ふふっ、ショロったら初心よのぉー。可愛いのぉー」
「や、止めてください! そろそろ、始めますよ!」
まったく、これから大変な目に合うのは、私の方なのにね。
私は、自分の身体を見下ろした。
一国の王の座る玉座なんて目ではない。重厚な金属で出来た椅子は、まるでそれ自体が牢獄であるかのように大きく物々しい。
それに反して、そこに座る私は何て情けない姿でいるのだろう。椅子の二回りも三回りも小さな私の身体は、がっしりと拘束されているのだから。
両手は頭上に持ち上げられたまま金属の輪に留められ、両足はMの字に大きく開かれて指の一本一本まで拘束されている。
私は、少しだけ両手足を揺すってみる。ガチャガチャとした金属音が、地下室を小さく響かせた。分かっていたことだけれど、それだけだった。頑丈な金属で作られた拘束が、非力な私に解けることなんて、あるわけがなかった。
まるで清楚さの欠片もない、何ともはしたない格好を意識すると、私は身体の熱さを抑えることが出来なくなってしまう。
私は、気持ち声を張り上げて言った。
「さぁ、ドンと来なさい! ショロの特訓なんて、屁でもないわ!!」
それは、いつも通りのやせ我慢。
私は、あなたの前では強がっていたい、余裕ぶっていたい。
それは、本当につまらないもの。世界最凶の魔女と呼ばれた者として、そして何より、あなたの最も身近に居る大人の女性としての、ささやかな矜持。
「へぇ……」
だけど、あなたは笑った。ほんの少しだけ、頬を引きつらせながら。
「そうですか。僕の特訓なんか、屁でもないですか」
「ぇ、あ」
「それなら、余裕しゃくしゃくの表情で、乗り切ってくださいね。オネア様」
小さな身体には不相応な、大きな魔族の翼がザワザワとはためく。
影の差したあなたの笑顔に、今度は私が頬を引きつらせた。
「ちょ、ちょっと待って! い、今のは言葉のあやってやつで!」
「えぇ、分かりました。始めますねー」
「待っ!? ショロぉっ!? あなた、絶対聞いて――」
私の必死の弁解を、あなたは笑顔で聞き流す。
そして、私の言葉は、襲い掛かる刺激に呆気なく吹き飛ばされてしまうのだった。
「なひぃひゃわあぁぁぁあぁぁああぁっ!!!?」
次の瞬間部屋を包み込んだのは、私の間抜けな悲鳴だった。
こうして、今日も始まった。
私とあなたの、辛くて、苦しい、『特訓』の時間が。
~・~・~
「うなぁっひひっ、ひぃっひひひひひひっ!!? そ、そんなぁっ! 最初っから、つよすぎぃぃっひゃぁっはははははっひゃははははははははははははははははははっ!!!?」
あなたの指が、私の両腋の下を這い回る。
まるで遠慮のない激しいくすぐり責めに、私は早々に大きな口を開けて笑い出してしまった。
「オネア様、僕の特訓なんて屁でもないのでしょう? そんなに笑ってしまって、どうしたのですか?」
「あぁっひゃひひひひっ!! ご、ごめんぅっくひひひひっ!! ごめんたりゃぁあっひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!? はひっ、はわっ!? わひゃぁっはははははははははははははははははははは!!!」
変なスイッチが入ったあなたは、本当に意地悪。半目で口元にうっすらとした笑みを浮かべて、そんなことを私の耳元で囁いてくる。あなたの高くも落ち着いた綺麗な声に、ガチャガチャとした拘束具の音すら遠くに聞こえてしまう。
あなたの小さな爪が、腋の下のくぼみをほじくる。硬くてつるつるした爪が肌のしわに引っ掛かる度に、私の背筋は電流が流れたようにびくびくと跳ね続けた。
腋の下から、カリカリ、カリカリという音が聞こえてくる気がした。そして、それを一度意識してしまうと、私の耳の奥でありもしないその音が本当に響き始めた。カリカリ、コチョコチョコチョ、カリカリカリカリ。その音は、身には塗らぬ潤滑剤となって、私の身体を更に敏感にした。コチョコチョコチョ、カリカリ、カリカリカリカリ。
「オネア様の弱点はどこですか?」
「なひゃっ!!? ひゃひゃひゃひゃっ!!? そんな、そんなのぉほほほほっ!!? ひひゃっ、ひゃははっははははっ、ぁあっはははははははははははははははははははははっ!!!」
あなたが突然口開いたのは、そんな言葉。
私は、笑いながらも心の中で『こなくそぉ』と毒づいてしまう。あなたは、毎日毎日、どれだけ私の身体をくすぐり姦していると思っているの? これだけ私の身体を敏感に開発しておいて、そんなことも知らないの? そんな風に思ってしまう。
だけど、息を絶え絶えにして笑い続けている私には、そんな文句を長々と垂れる余裕なんてない。私は、何とも素直に、情けなくあなたの問いに答えた。
「あひっ!! あひのうらよぉおっほほほほほほほほほほほほほっ!!! よわいのぉっ!! あひぃひゃっ!? ひゃぁっははははははははひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!?」
「えぇ、知ってます」
呂律の回らない舌で必死に紡いだ解答を、あなたは笑顔で一蹴した。こなくそぉ。
そして、あなたの次の言葉に、私は全身をぎくりと強張らせた。
「それ、半分ですよね?」
「えひゃっ!!? ひゃひゃひゃひゃっ、ひゃんぶんっ!!? ひゃんぶってえぇっへへへへへへへへへへへへ!!? ぇぁっひゃっははははははははははははははははははははははははははっ!!!」
「僕が、毎日毎日、どれだけオネア様の特訓に付き合っているとお思いですか? そんなことも知らないとでも?」
溜息と共に出たのは、私の想いを焼き直ししたかのような言葉。
そして、あなたは再び影の差した笑みを浮かべると……。
「おへそ、弱いですよね。れろ……っ」
「ひゃわあぁぁあああぁぁぁぁあぁっ!!?」
私のおへそを、ぺろりと舐めた。
蕩けるようなくすぐったさに、私は両手足の拘束具をガシャリと大きく響かせた。
「んっ、ちゅっ。ぺろ……、んむ……っ」
「にゃひゃあぁぁぁあんっ!!? ひゃりゃっ、ぞくぞく、しへぇっへへへへへへ!!? へんにっ、なっひゃぁっはははははははははははははっ!!? あひっ、ひぁっひゃっははははっはははははははははははははははっ!!!」
あなたは、暴れる私の腰にしがみ付き、おへそをぺろぺろと舐め姦す。
おへそをくすぐられるのは、凄く変な気分。
腋の下とはまた違う、ふにゃふにゃとしてしまうようなくすぐったさが、おへそから全身に広がってゆく。あなたの柔らかな舌が動く度に、お腹の筋肉が独りでにびくびくと痙攣するのが分かった。
「ひゃわっ!!? わひゃひひひひひひっ!!? ひゃめっ、しょれやめぇぇっへへへへへへへへへへ!!? ぐにゅぐにゅしにゃいえぇえっへへへへへへへへへへへっ!!!」
まったく、私は毎日毎日、どれだけ身体をくすぐり姦されてきたというのだろう。
おへそが弱いなんて、今の今まで気付かなかった。
そして、私はそれを認識してしまう。
おへそをくすぐられるのが弱いと、自覚してしまう。
すると、私の身体はどんどん敏感になってゆく。
あなたの舌が私のお腹の筋肉をこね姦す度に、耐えがたいくすぐったさが折り重なって、私の声帯を震わせていった。あなたの舌が私のおへそをほじくり姦す度に、蕩けるようなくすぐったさが私の腰を貫いて、全身を熱くさせていった。
あぁ。私は、こうしてあなたに開発されてゆくんだ。
私は、情けなく笑い狂いながら、そんなことをぼんやりと感じた。
「しょ、ショロぉおぉぉっほほほほほほほほほほっ!!? くしゅぐっひゃいぃっ、くしゅぐひゃぃよおぉぉぉっほほほほほほっ!!!」
「れろっ、んちゅ……っ。まだまだ、元気そうですね。こんなものじゃ、特訓を終わりには出来ませんよ」
「しょんなぁっ、ぁあぁぁっひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!? ひゃわぁぁぁあぁぁぁああっはははははははははははははははははははははっ!!! ぁははははっ、あぁぁっはははははははははははははははははっ!!!?」
そして、私はあなたにくすぐられ続ける。
ペロペロ、チュルチュル、ペロペロペロペロ。
グニュグニュ、ペロペロペロ、レロレロレロレロ。
あなたにおへそを舐められ続ける。
その時間は、とても辛くて、苦しくて。
それなのに、私の心の隅には、ずっとこんな言葉が住み付き続けていた。
――気持ち良い――
~・~・~
「はひ……っ! ひゃぁ、はは……。くひ……っ!?」
私は、一体どれくらいの時間、あなたにくすぐり姦されていたのだろう。
数十分か、数時間か、数十時間か。それとも、まだ数分か。
笑い悶えている時間は、いつもその正確な尺度を見失ってしまう。
私は、もうへとへと。
くすぐったい余韻に包まれて、荒い呼吸の隙間から小さく笑い声が漏れ続ける。
顔は涙と涎、身体は汗だらけ、本当にみっともない姿。そしてそれをあなたに見られていると思うと、また涙が出てしまいそう。
満身創痍な私に反して、あなたはまだまだ元気。
息ひとつ乱れていないあなたの様子から、まだそう時間も経っていないことが分かった。
あなたは、小さな瓶を取り出して、私に告げる。
「新しい方式を採用しました」
あなたが手を傾けると、中に入っている緑色の液体がたぷんと揺れた。粘度の高いその液体を、私は知っている。だって、私は何度もそれを見、そして自らの全身に塗りたくられているのだから。
私は、全身に鳥肌を立たせた。
「……ビンカンドラッグ…………」
「えぇ、そうです」
やっぱり。
全身の感覚を著しく鋭敏化させて、『特訓』の効果を飛躍的に上昇させる薬。
だけど、腑に落ちないことがあった。
ぬるぬるとろとろと、塗り付けるだけでくすぐったい、緑色の液体。
その薬は、《もっと薄い色をしていた》ような……。
「本来、この薬は希釈して使います」
「へ……」
「素材が高価ですし、原液のままだと少し効き過ぎてしまいますから」
あなたの『希釈』という言葉に、私の背筋が冷えてゆく。
もしかしたら、あなたは今、とんでもないことをしようとしているのでは?
口には出せない恐ろしい疑問を、あなたは至って事務的に答えてくれた。
「今まで全身に塗っていた分量を、一ヶ所に集中して使います。コストはそのままで、局所的に目覚ましい効果が期待出来ます」
「ひぃッ!!?」
そう言ってあなたが手を添えたのは、私の足の裏。
大きくMの字に開いた足は、指の一本一本まで開かれて拘束されている。
無理やり反らされた足の裏は、それだけで敏感だった。あなたが軽く触れただけで、私は腰をびくりと震わせて悲鳴を上げた。
あなたは、瓶の中の液体を、自身の手のひらに落としてゆく。
「ぁ……! やめ、止めてぇッ!!? そんなの塗られたら、私、壊れちゃ……!!?」
私は、拘束具をガチャガチャと鳴り響かせながら暴れ出した。
私の脳は独りでに、全身を敏感にさせていた薬が、両足の裏というただ二ヶ所に集中する様子を想像してしまう。
まだくすぐられてはいない。それなのに、私の耳の奥で、またあの音が響き始めた。コチョコチョコチョ、カリカリカリ、コチョコチョ、カリカリカリカリカリ、コチョコチョ、コチョコチョコチョコチョ。
「ぁ……ッ! ひ……ッ!!?」
壊れる。比喩なんて生易しいものではない。本当に、壊れてしまう。
「……始めます」
恐怖で声が出せない私に、あなたは呟いた。
顔を伏せているあなたの表情を、私は見ることが出来なかった。
~・~・~
「――ッ!!? あひッ!! ぁ゛!!!?」
その一瞬、私は声を上げることが出来なかった。
それは、余りに強過ぎて。今まで感じたことのない刺激で。
数多のくすぐりを受けてきた私でさえ、それを『くすぐったい』と感じることを遅らせた。
「ぃ゛あ゛ぁあぁぁっははははははははははははははははははははははははッ!!!? な゛ッ!!? ひはッ!!!? あ゛ぎゃあぁぁぁっひゃっははははははははははははははははははははははははははははッ!!!!」
そして、私の獣のような笑い声が地下室を響かせる。全身を縛り付ける拘束の金属音さえ、今はか細く小さなものに聞こえた。
溢れる涙で、あなたの顔が見えなくなる。あなたが私の顔をじっと見つめている、それだけは辛うじて分かった。
あなたは今、どんな表情をしているの? みっともない私を嗤っている? それとも、ただひたすら事務的に、無表情に私の姿を観察している?
あなたの表情が見えないのは、何だか凄く恐かった。せめて、恥ずかしく笑い悶えている私を、どうか嫌わないで。
「あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁっひゃっひゃっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!!! あ゛ひがぁッ!! あひぎゃあ゛ぁぁっひゃっははははははははははははははははははははははッ!!!?」
足の裏に襲い掛かるくすぐったさは、まるで衰えることはない。それどころか、段々と薬が沁み込んでゆくのだろう、ますます強くなってゆく。
神経の隅々まで、骨の芯までくすぐったさが襲い掛かる。身体と意識が剥離する。私は、脳がどろどろに溶かされてゆくような心地すらした。
あなたは、私の足の裏をくすぐり続ける。
「あ゛に゛ゃぁ゛あぁぁあっひゃっはははははははははははははははッ!!! しょ、しょろ゛おぉぉおぉっほほほほほほほほほ!!!? ひゃめ゛、しぬ゛ッ!!? しんじゃあ゛あ゛ぁぁ゛あぁぁっはははははははははははははははははははは!!!!」
土踏まずに激しく指を這わせられる。
ぽこんとへこんだくぼみに薬を塗り付け、指先でそれを掻き出し、そして再び塗り付ける。終わることのない塗布作業に、私は涙を撒き散らした。噴き出す汗は、薬の効果を薄めてはくれなかった。
「ふひゃあ゛ぁ゛ぁあぁああぁぁぁぁぁッ!!!? ひゃらッ!!? しょれッ!!! へん、にぃいぃぃぃッ!!? ぃ゛ぎゃあぁぁあぁぁっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!!!!」
指の間を、しつこくほじくられる。
大きく開かれた指の間は、あなたの指をすんなりと受け入れる。入り込んだ指が、時折足の甲まで撫で姦す。慣れない場所を責められる不思議なくすぐったさは、私の身体を不自然にがくがくと震わせた。
「ぃ゛い゛ぃ゛ぃッ!!!? く゛、くる゛ひいぃぃっひひひゃひゃひゃひゃぁっははははははははははははははははは!!! こわ゛れるうぅ゛ッ!!! こわれ゛ひゃあ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁあっははははははははははははははははははははははははッ!!!!?」
指の付け根からかかとまで、爪で激しく引っ掻かれる。
足の皮を剥いてしまうぐらいに激しい責めは、潤滑剤となった薬と共に、頭まで響かせるくすぐったさを与え続けた。全然痛くない、そして、酷くくすぐったかった。
かぎ状に曲げられた指が、何度も何度も足の裏を往復する。時には指を揃えて、時には不規則に指を蠢かせて、何度も何度も足の裏を引っ掻き続ける。余りに激し過ぎるくすぐったさは全身にまで伝わり、私にありとあらゆる場所をくすぐられている錯覚すら与え始めた。
「あ゛あぁ゛ぁぁ゛っはははははははっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!!!? しょ゛ろ゛ぉ゛ぉお゛ぉぁあ゛ぁあっはははははははははははははははははは!!!! や゛めぇッ!! や゛め゛えぇぇっへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!!!」
私は、ずっと笑い続けた。
喉が千切れてしまいそうな程に声を張り上げて。涙と汗と涎に全身を塗れさせて。燃え尽きる程に身体を熱くさせて。
そんな私を、あなたはずっと見つめていた。
涙が溢れる私の瞳は、あなたの表情を伺うことは出来なかった。それでも、あなたがずっと私の顔をみていることだけは分かった。
――恥ずかしいよ、ショロ。こんな顔を見つめて、良いことなんてないよ――
あなたは、それを聞いてはくれない。私を、ずっとくすぐり犯し続けた。
~・~・~
些細な後悔が、大きな災厄に繋がることがある。
今の私にとって、後悔とは、履いていたジーンズのことだった。
「あ゛ぁあ゛あぁぁッ!!!? も゛ぉ、や゛めぇぇえっへへへへへへへへへへへへへへへへ!!!? も゛れひゃあ゛ぁッ!!? でひゃあ゛あ゛ぁぁあ゛ぁ゛ぁっはははははははははははひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!!!!?」
それは、不意に起きたことだった。
いや、もしかしたら、それはじわじわと訪れていたことなのかもしれない。
ただ、余りのくすぐったさに気付かなかっただけで。
お腹に感じる圧迫感。腰に走るむずむずとした感触。
それは、迫りくる尿意。
「ひゃめ゛ぇッ!!? ほん、とぉ゛に゛いぃぃ゛っひひひゃひゃひゃはっはははははははははははッ、ぁ゛あ゛あっははははははははははははははは!!!? ら゛めぇッ!! ら゛め゛なのぉ゛おおおぉぉおおっほほほほほほほほほほほほほほほほ!!!! ぃ゛、あ゛、ああぁぁぁぁぁッ!!!!?」
だけど、気付いた時には遅かった。
私の訴えは、あなたが聞き取るには余りに不明瞭だった。
襲い掛かるくすぐったさは、私が尿意を我慢するには余りに激し過ぎた。
「ぃ゛や゛ッ、ああぁぁぁッ!!!! ――あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁあ゛ぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!?」
私は、あっという間に失禁した。
同時に私は、図らずとも秘部を意識し始めてしまう。足の裏から襲い掛かるくすぐったさと、失禁する解放感が混ざり合い……。
「あ゛ぁ゛あぁぁあぁっはははははははははははははははッ!!!? イッ!!? いッ!!? ――あ゛あ゛ぁぁぁあ゛ぁぁあ゛ぁああぁぁあぁぁああああああッ!!!!!」
私は、失禁と同時に絶頂に達した。
そして、本当に大変だったのは、これからだった。
もしも、私がお漏らししたと気付いていたら、あなたはくすぐる手を止めたかもしれない。冷静で優しいあなたなら、そうしただろう。
だけど今、くすぐる手は止まっていない。
あなたが、それに気付いてはいなかったから。
「い゛あ゛あぁぁぁぁあ゛ぁぁあッ!!!? あ゛ぎゃあ゛あ゛あぁぁあぁぁあっははははははははははひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!? ら゛え゛ぇッ!! や゛え゛え゛ぇぇえぇぁ゛あぁ゛ああああっはひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!!!!?」
私が履いていた厚手のジーンズは、私の尿を臭いまで遮った。
下着はもうぐしょぐしょで気持ちが悪い。それなのに、私の尿は衣服の外へは中々染み出さず、衣服の裏側でたぷたぷと溜まり続けていた。
私の顔をじっと見つめているあなたが私の失禁に気付いたのは、もうしばらく後。
それまでずっと、あなたは私をくすぐり続けた。
「あ゛びゃあぁぁあ゛っひゃはははははははははははははははははひゃひゃひゃひゃひゃッ!!!!? し゛ぬ゛う゛ぅ゛うぁ゛あぁ゛あっひゃははははははははははははははははッ!!!? あ゛ぁ゛ッ!! ぁ゛あぁ゛っはははははははははははははははははははは!!!!」
足の裏をくすぐり続けた。
「あ゛め゛ッ!!!? ま゛た、イ゛うッ!!!? イ゛、あ゛ぁ゛ッ!!? ――ぁ゛あ゛あ゛ぁぁあ゛ぁぁあ゛あ゛あ゛ああぁぁぁあああああっははははははははははははははははははははははッ!!!?」
くすぐり続けた。
「あ゛ぎゃああぁぁあぁぁぁぁああっひゃははははははははははははははははははははははッ!!!!? ひゃ゛あぁぁっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!!!! ぁ゛あぁぁあぁぁぁぁああああああ゛っはははははははははははははははははははは……ッ!!!!! ぁ゛……、あ゛ぁ゛……ッ!!!?」
ついに、私の意識は、深い闇に覆われてゆくのだった。
~・~・~
――――
――
「んっ……うぅ……っ?」
「オネア様っ!!?」
「わっ!?」
「っ……! ぐすっ、ぅっ……! ぅえぇぇ……っ!」
どれくらいの間眠っていたのだろう。地下室の隅に置かれたベッドの上、そこで目を覚まして早々、私は面喰らった。
あなたが私に勢い良く抱き付き、嗚咽を上げて泣き始めたのだから。
「ごめ゛んなさい……! ごめ゛んな゛さぃ゛……っ!」
その言葉に、私は先程までの出来事を思い出す。
それと同時に、私の身体がかっと熱くなった。
私は、自分の身体を見下ろす。
私の身体にはお漏らしをした跡もなく、清潔な下着に着替えられていた。
あなたが、着替えさせてくれたのかな? そう思うと、何だか顔が凄く熱かった。
そして顔を上げて、あなたの顔を見つめる。
綺麗な瞳は涙でぐしゃぐしゃ、鼻水まで垂れてしまっている。
本当に、情けない顔。
私は、あなたの背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめる。
「反省してる?」
「はい゛! しでますっ! すみ゛ま゛せんでした……っ!」
「そっか」
「う゛っ、え゛……っ! え゛ぇぇ……!」
そして、私はあなたの頭を優しく撫で始めた。
――今回は、やり過ぎかな――
だけど、私はそれを言葉にはしない。
だって、あなたはこんなにも泣いてくれているのだから。こんなにも、私を想ってくれているのだから。
だから、それ以上の言葉なんて、要らなかった。
あなたは、私の胸の中で泣き続ける。
その姿は年相応、まだ幼い子供の姿だった。
――あぁ、愛おしい――
~・~・~
「ねぇ、一つだけ教えて」
「……はい」
あなたが落ち着いた頃、私はあなたを胸に抱いたまま尋ねた。
「あなたにとって、『特訓』って何?」
「何、ですか……?」
「私を鍛えるための『特訓』。本当に、それだけ?」
「ぇ……」
「私を鍛えるためだけなら、あそこまでさじ加減間違えたりしないわよね」
そして、私はあなたの肩を優しく掴む。あなたの顔を胸から優しく離し、目をじっと見つめて問うた。
「あなたにとって、『これ』は何?」
「…………」
次の瞬間、あなたは目を逸らす。
そして、『何を言っているんですか』なんて、いつもの調子で溜息を付く。
また、大人びた子どもに戻る。
その質問に、答えてはくれない。
だけど、私はそれで良い。
あなたの瞳の中に、はっきりと見ることが出来たから。
言葉を聞くことなく、あなたの綺麗な瞳から、その答えを得ることが出来た。
あなたが『これ』に宿した、特別な想いを。
だから、私はそれで良い。
私は、あなたの表情を今やっと知ることが出来た。
私の制止も聞かず、やり過ぎてしまった、本当の理由。
とても簡単な理由、《興奮していたから》。
そう思うと、凄く恥ずかしい。そして、嬉しかった。
「さて、そろそろ夕飯の準備をしに行きますね」
「えぇーっ。もっと添い寝してよぉ、ショロぉ~」
「だ、駄目です! そんなこと言ってると、夕飯抜きですよ!」
こなくそぉ。私はあなたの腰にしがみ付き続けた。
私たちはこれからも、『これ』を続けるのだろう。
毎日毎日、私はあなたに身体をくすぐられる。
それは、『特訓』以上の『何か』。
それは、とても辛くて、苦しくて。
そして、甘くて、愛おしい。
~・~・~
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