南美端小学校の話その1
ここ、南美端(なみはた)小学校は普通とは少しばかり違った教育方針を採っている。
一つ目は、くすぐりを教育に取り入れている点。
二つ目は、5年生になった男子児童は女子によって躾けられる義務があるという点。
そして三つ目は、いくつかのキーワードを使った暗示で教育の補助を行っている点だ。
これを洗脳だ、人権侵害だ、などというのは分かっていない人間だけで、この学校に子供を通わせる保護者もこの方針には諸手をあげて賛同している。
全ての保護者が賛同するわけがないだろう?もちろん、そういった保護者にはこの教育方針のすばらしさを自らの身をもって理解してもらうことになっている。
モンスターペアレンツなどというものが存在する昨今、保護者をきっちりと躾けてあげるのも学校の仕事なのだ。正しい親の在り方というものまで教えてくれるこの学校を賞賛する声は多い……。
南美端小学校の話その1
「健太君、『両手、頭』」
「ん、わかった」
昼休みの教室、宝華(ほうか)は隣の席に座っている健太にそう声を掛けた。
短く刈り込んだ髪の健太は、半袖半ズボンの制服がよく似合ういわゆるスポーツ少年タイプだ。いつもなら外にサッカーでもやりに行く所だが、今日は教室残るよう宝華に言われたのでここにいる。
気のない返事をした健太は両手を頭の後ろにやり、指同士を絡めながら首筋にぺったりあてた。何気ない動作のように見えるが、これだけで健太の両手はもうそこから動かすことが出来なくなる。
宝華の口にした『両手、頭』というキーワードを受けて、あらかじめ健太に仕込まれていた『両手を頭の後ろにやってそこから動かさない』という命令が実行されたからだ。
健太をはじめとして、男子に掛けられた暗示は多岐に渡る。そのほとんどは担任である林田吉見(はやしだよしみ)が握っているが、今宝華が使ったような一部の簡単な暗示に関しては、キーワードが女子に教えられている。
男子を円滑に躾けるための道具が女子には与えられているわけだ。もっとも、躾けられる側である男子はそのことに全く気が付いていないのだが。
「じゃあ腋、こちょこちょするね」
「う、うん。わかった」
これからくすぐられる。そんなことを言われたというのに、健太は嫌がる素振りすら見せなかった。多少は緊張しているようだったが。
後ろの机を少し動かして、健太の背後に作ったスペースに立った宝華は、慣れた手つきでためらいなく腋を攻撃し始めた。
「そーれ、こちょこちょこちょこちょ…」
「あっひぃっ!ひっふうぅぅっ、うっううぅくくいひひひぃぃ!」
宝華のほっそりした指先が健太の腋にあてられ、こちょこちょこちょという囁きと共に腋の窪みをほじり始めた。
制服越しとはいえ、全開にされた敏感な部分をくすぐられるのはきつい。何度と無く行われてきたことだが、このくすぐったさに慣れる気配はなかった。
「ああっ、ああぁ、ダメ、ダメだぁっ!うひぃっ!くすぐったいっ!」
腋を閉じてくすぐったさから逃れたいという健太の希望に反して、両手は接着したように後頭部から離れない。
従って腋は全開のままで、どうやっても宝華の魔手から逃れることは出来なかった。それでもくすぐったさを紛らせようと、健太は足をばたつかせながら体をくねくねと左右によじっていた。
「暴れちゃダメじゃない、もー。……健太君、『V字開脚』」
「く、くくく、くぅぅぅっ!?」
宝華がそう言うと、椅子の下でどたばたと乱雑なステップを踏んでいた健太の足が持ち上がりはじめる。
毎日柔軟体操を行っており柔らかな関節を保持している健太は、120度ほどに開脚しピンと足を伸ばした見事な開脚を見せた。これもあらかじめ健太の脳に刻まれたキーワードだ。
「上手に出来るようになったねー。えらいよ健太君。あ、美紀ちゃん、江里ちゃん。悪いんだけど健太君の足ささえてあげてくれない?」
「いいよー」
「しっかり持っててあげるからね」
近くの席で見ていた友人達はこころよく宝華の言葉に応じる。よくくすぐ
る相手が運動場に遊びに行って彼女たちは暇だったのだ。
「ううぅぅ、く、くぅ…!」
「大丈夫?」
顔を真っ赤にしてぷるぷると震える健太の右足を抱きかかえてやりながら、
江里は心配そうにする。実はお尻と背中だけで体を支えながらV字開脚をやるのはかなりつらい。そのため普段この開脚姿勢をとらせるときには床の上に寝転がらせたり、両手を床についたり、両手で太股を抱えさせてからやらせるのが常である。
宝華には男の子を苦しめて喜ぶ趣味はないので、健太に無理をさせずすぐにクラスメートの手を借りたのだ。
「ほら、もう笑っても大丈夫だよ」
「うう、う、うはははははぁっ!」
下手に笑い声をあげると力が抜けそうなので、笑いを必死で堪えながら足に力を入れていた健太だが、美紀と江里が両足を持ってくれたお陰で
少し楽になったのか、力を抜きながら笑い声を出し始める。とはいえ足を持ち上げる必要が無くなっただけでV字開脚の姿勢は維持しなければならないので、ぴんと伸ばされたままの足はぴくぴくと震えていたが。
「じゃあ私足の裏くすぐったげる。江里はどーすんの?」
「あ、私はこのへんかな」
美紀は健太の左足首を持ち、上靴を脱がせた足の裏に這わせた指をせわしなく動かして靴下の上からくすぐり始める。対して江里は右足を胸元にしっかり抱え込むと、膝の裏と太股にそっと指を這わせて上下に動かし始めた。
靴下越しに感じる柔らかなくすぐったさと、膝裏と太股の付け根付近に走る触れるか触れないかの繊細なタッチが生み出すもどかしいむずがゆさ。もちろんこの間、腋をくすぐる宝華の指も止まることはない。
「あひゅえぇっ!?ひゅひぃ、ひぃっひっひひひぃ!らめ!しょこやめぇっ!きゃははっはははっはっはぁ!!?」
両足から異なったくすぐったさが昇ってきて、お尻で一つに混じり合ったあと脊髄を通り脳へと届けられる。シャツ越しに腋の柔らかい窪みをいじってくる宝華の指と合わせてくすぐったさの三重奏となり、強烈な刺激で健太
は顔をぐしゃぐしゃにしながら笑い声を挙げていた。そんな健太に宝華は更に注文を出す。
「こらっ、そんな態度じゃダメでしょう?美紀ちゃんも江里ちゃんも健太君のために手伝ってくれてるんだよ?ほら、こちょこちょしてくれてる二人に『お礼を言いなさい!』」
「!!くっくひゅひぃっ、こ、こひょっ!こひょこひょひてくりぇてぇっ、あ、ああぁありがひゃっひゃっひゃひゃあぁっ!はひっっひひひっひぃっ!!」
「もー…そんな不真面目なお礼じゃダメでしょ?今日はお礼の言い方じっくり練習させたげる。ほらもう一回最初から!」
「きゃっきゃっきゃははははぁっ!おお、おっぉおっ!こひょこひょぉっ!ひょっひょっひょへひゃぁっ!?あひぃ、あっひっひひひぃぃっ!!!」
ただ教室にいただけなのに3人掛かりでくすぐられ、激しく笑い狂わされる。これがこの学校の日常。しかしこの程度は序の口に過ぎない。
女子の手で定められる恥ずかしいルール、教師しか知らないいくつもの強力な暗示、繰り返される躾という名のくすぐり、そして少年達はそれら全てに逆らえないのだ。
恥辱とくすぐったさで彩られた学校生活は卒業するまで終わることがない。
いや、もしかしたら卒業したあとも逃れられないかもしれないが。
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