五号の受難

Last-modified: 2020-11-08 (日) 03:52:54
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起き上がった二号は頭を押さえ軽く首を振った。
「二号!あんた、大丈夫なの?サナレにボロボロにされちゃったみたいだし・・・」
「私は大丈夫。」
二号はゆったりと逆さづりにされた五号に近づく。
「それより私五号ちゃんに言わなくちゃいけないことがあるんだ・・・」
ふらふらした二号を心配しながら五号は聞き返す。
「何?サナレが見ていないうちにこの足枷を外して欲しいんだけど・・・」
すっかり泣き止んだ五号の足元に二号はしゃがみこみゆっくり手を伸ばす。
「あのね・・・サナレ様だよ?」
かりかりかりかり!
突然足の裏に爪を立てられた五号は悲鳴を上げながら上半身を仰け反らせた。
まるで二号のテクニックではない。爪を立て細かく土踏まずをかき回しかかとを掻き毟るようにひっかく。
「いやははははは!二号!?ははははやめきゃはははは!」
「いつも私ばかりくすぐられて不公平だと思ってたんだぁ・・・サナレ様のお許しも出たし今日はたっぷりいじめてあげる。」
左手で頭を抱え込み何もない空間に右手を振り回し五号は考える。どう考えてもこのテクニックはおかしい。

右足の土踏まずを撫で回しながら左足の指の間を責めることなど二号に出来るはずがない。さっきサナレは何といっていた?五号は身を狂わすくすぐったさに耐えながら考える・・・考える・・・
「ひゃはははは!さ、サナレっ!あんた二号に何したの!?」
「イヤだなぁ?五号ちゃん、私は二号だよ?くすぐったくて頭おかしくなっちゃった?」
声も仕草も二号である。だが五号は確信した。コイツは・・・コイツはサナレだっ!
「二号はっはははは、二号はそんな人をなぶるような目をしないわっ!ひははは!アンタはサナレね!」
ピタリと指が止まった。生き地獄から解放されブランと重力に引かれ五号は吊られた。

「へぇ、ご名答だよ五号。私をいつまでも呼び捨てににするくせに余計な所には気が付くらしい。」
五号がガクガクと上を向くと二号がサナレの目で見下ろしていた。嫌な光景だ。
「はぁはぁ・・・アンタ二号に何したの・・・?」
「意識ジャック・・・かな?気絶した二号の身体に入り込ませて貰った。ニジロクの力を借りてね・・・」
「六号・・・」
五号は歯を食い縛った。自分はこれから二号に蹂躙されるのだ・・・中身はサナレだが見た目は二号である。頭でいくら理解しても精神的には非常に追い込まれる。五号はサナレの性格の悪さを改めて呪った。
「それで?二号の身体で私をいたぶろうってわけ?」
息を整えた五号が二号に問い掛けると二号はにこやかに笑い首を振った。その目を見て五号は吐きそうになった。何故目だけサナレなのだろう・・・どうせなら完璧になりきってくれればまだ・・・
「そうしようと思ったのだがね、君の察しの良さに敬意を表してキミが許される機会を与えようと考えるのだよ。」
「どうせろくでもないことでしょ?大体二号の身体でその話し方やめてくれない?バカだから二号の話し方覚えてないのかもしれないけど吐き気がひぅ!」
つー

二号は最後まで言わせなかった。人差し指で五号の足の裏をなぞりながら若干怒ったような声で話す。
「五号ちゃんは、自分の立場を理解したほうが良いと思うよっ?あんまり私を怒らせるとせっかくのチャンスが!無駄に!なるよっ!?」
言葉の最後の方はもはや暴力的なくすぐったさである。指の間を広げて人差し指でひっかかれた。しかし五号は尋常ではない精神力で笑い声を抑えつけた。

「はひっ、くくっ、・・・や、やれば出来るじゃない・・・で、チャンスってのは何?・・・っ、どうせただじゃっ、ないんでしょう?」
五号の足の裏を人差し指でなぞりながら頬ずえをつき二号は五号を眺める。サナレは実に楽しかった。そしてこう思った。やはり私は天才だ。
「口元が震えてるよ五号ちゃん?辛いなら笑えばいいのに・・・チャンスっていうのは簡単なゲームだよ五号ちゃん。私が両方の足の裏にそれぞれ文字を書くからそれを五号ちゃんが当てるの。頭の良い五号ちゃんなら簡単だよね?」
「くくっ、・・・そうね、素晴らしく、うっ、くだらなくて簡単、ひゃっ、そうだわ・・・速く始めましょう?」
五号の身体は正直もう笑いをこらえきれないと悲鳴を上げていた。それを知ってか知らずか二号はくすぐるのをやめ両手の指をボールペンの先のようなものに変え始めた。
「ふぅ・・・サナレ、二号の能力も使えるわけ?」
「サナレ様は六号ちゃんの能力で自分の意識を俗に言う電波って物に変えて私の身体に入ったんだよ?つまり私の身体は今、余すところなくサナレ様の物なの。」
変化が完了した二号は中指と薬指を使い器用にスカートをめくって見せた。パンツが顕になる。だが天地が逆転したかのような状況にいる五号には最初からパンツなど見えている。
「・・・アンタバカじゃないの?」
五号は様々な意味でサナレを嘲笑った。二号の顔が少し赤くなった。伝わったのだろう。
「ゲームスタートだ。私を侮辱したことをたっぷり後悔させてあげるよ五号。」

そう言って二号は足の裏にペンを走らせ始めた。猛烈なくすぐったさが五号を襲う。五号は頭を抱えてじたばたと暴れ狂った。文字を読み取るどころではない。ペン先が走る刺激に頭が壊されそうである。
「五号、笑いすぎだろう?そんなんで読み取れるのかい?・・・足の指が邪魔だなぁ・・・」
二号は嫌らしく笑いながらペンを走らせ続ける。かりかりかりかり・・・
「終わったよ五号。さあ答えを・・・大丈夫かい?」
五号はだらんと身体を垂らしてぴくぴくと痙攣していた。二号は更に口元を歪めた。惨めな物である。
「かっ・・・はっ・・・さ、さな・・・れ」
「それが答えかい?」
五号は痙攣したまま言葉を続けた。
「こ、答えはわからないけど・・・アンタ・・・二号の真似・・・忘れてるわよ?怒りで・・・我を忘れるなんて・・・無様ね・・・」
二号の顔に浮かんでいた笑顔が消えた。無表情になった二号は言葉を発した。
「不正解だ五号。罰ゲーム。六号、アレを動かせ。」
五号は音がした下を無気力に見た。またひどい目に合わされるのかと思ったがただテレビがせり上がってきただけだった。

「見えるかい五号?正解は右足にプリンス、左足に王子様だ。君にぴったりな問題だろう?だが今はそんなことはどうでもいい。君の足の裏をまた白紙に戻さなくてはね。」
テレビの映像は五号の足の裏を映していた。確かに二号が言ったとおり文字が書かれている。少し歪んでいるがこれは五号が暴れたせいだろう。
自分の足の裏をテレビで見るって何かシュールね・・・
五号はボーっとした頭でそんなことを考えていた。
しかし足枷から妙な紐のような物が伸びて自分の足の指に絡みつこうとしているのを見て無抵抗ではいられなかった。
足の指を動かしながら二号に向けて擦れた笑いすぎて声を上げる。
「さなれぇ・・・これは一体何なのよぉ?」
「言っただろう?足の裏の掃除だ。足の指が邪魔なので縛る。ただそれだけだ。」
抵抗むなしく絡み付いて来た紐は二号の言うとおり五号の全ての足の指を無理やり固定した。足の指の間を紐が通るのはこそばゆかったがそれだけだ。
「・・・掃除?」
「そう、掃除だ。この文字を消す。あと声が擦れているが唾を飲み込めば治る。そう作った。」
ゴクリと五号が唾を飲み込むと喉の痛みが引いた。しかしテレビに映った二号の姿を見てまた五号は叫ぶ羽目になった。

「ちょっと!掃除ってまさか!?」
「ああ、文字を消さなくてはね?」
ぶぃぃぃぃ!二号はいつの間にか、左手の指を電動歯ブラシに変え、右手の指を普通の歯ブラシに変えていた。そしてそのまま問答無用で磨き始めた。
「電動歯ブラシは便利な物だね。動かすだけでいい、まあ乾いているからなかなか落ちないが。」
電動歯ブラシは無機質な音を立てて五号の足の裏を磨く。五号は悲鳴を上げて暴れるがその刺激に彼女が出来ることは悶えることだけなのだ。なぜならば今彼女の周りには何一つ掴める物も叩ける物もない。完全な自由だ。唯一拘束されているのが足の指である。
「普通の歯ブラシも前時代的だが捨てた物じゃないな。細かい所まできちんと磨ける。」
二号の言葉通り二号の右手は静かに丁寧にかつ繊細に五号の足の裏を磨く。それこそ皺の一本一本まで残さずに。彼女の足の指は勝手に暴れるが紐が右足と同じくそれを許さない。歯ブラシの繊維一本一本が彼女を狂わせ思考を溶かしていく。
「やははははは!だる、だれか、たしょたしゅけてははは!ひひひけくく!」
魚のように喚きながら跳ね回り暴れる五号を見て二号は満足気に笑った。

「ははは!どっちが無様だよっ!涎を撒き散らして暴れて・・・猿以下の獣じゃないか五号!」
五号はここに来て初めて上半身が自由にされている本当の意味を知った。何もない空間ではどこにも力を入れられない。笑い悶えることしかできない。たまに天井を叩くがまるで意味がなく触ることも出来ない。あまりにもくすぐったい。気が狂う。ひょっとしたらもう狂ってる?そんなことを考えながら五号は徐々に明るいはずの周りが暗くなっているような気がした。

五号は気が狂ったかのように笑い暴れて暴れて・・・やがては静かになって腕をブランと垂らした。
「クロノクル・ドールの限界ではない・・・精神面で限界が来たか・・・まあ漏らさなかったことは誉めてあげるよ五号・・・」
二号は冷たく気絶している五号を見やりせせら笑い叫んだ。
「ニジロク!第二ラウンドの準備だっ!」
そして小さく呟いた。
「五号・・・まだまだ序の口だよ?」

五号の受難第二ラウンドに続く