ワットソンとレイス

Last-modified: 2021-05-09 (日) 07:16:54
Top/ワットソンとレイス

レネイ・ブラジーことレイスは、窓の無い個室にいた。
肘掛けのある椅子に拘束され、まるで身動きが取れない。
時計も無い部屋なので目が覚めてから
どれくらい経ったのかさえ分からない。

寝間着である白のタンクトップと黒のショートパンツのみ身に着けている事から、昨夜自室で寝入った後で何者かに拉致されたのは想像出来た。

コンコン、と目の前の扉からノックの音が響いた。

「……ナタリー……?」

返事を待たずに部屋に入って来たのは彼女もよく知る女性、ナタリー。

「おはよう、レイス。」

ナタリーはゆっくりレイスに歩み寄ると、普段と同じ優しい笑顔で彼女を見下ろした。
普段と同じ表情の筈だが、どことなく目が笑っていないようにも見えた。

「気分はいかがかしら?私はすこぶる悪いわ。」

馴染みの顔が平然とこの場に現れた事で、混乱していたレイスの頭に更に困惑の種が増える。
まさかナタリーに誘拐される等とは夢にも考えた事はなかったからだ。

「……気分なら最悪よ。当然でしょ?まるで訳が分からないわ、ナタリー。一体どういうつもりかしら?」

「案外冷静なのね。そんなところも素敵だわ。」

「私が貴方を傷つけたのなら謝る。でもこんな真似、いくらなんでも酷いんじゃない?」

ナタリーの顔から笑顔が消えた。

「えぇ。大いに傷ついたわ。言ったでしょ?すこぶる気分が悪いって。」

「……早く放して頂戴。話はそれからよ。」

ナタリーが憤る原因は思い当たらなかったが、彼女の様子がいつもと違う事は明らかだった。
完全に目が座っていて、怒っているというより自分を見つめる瞳の奥からは狂気すら感じる。

「レイスが座っているその椅子、拷問から死刑にまで使える電気椅子だって知ってた?私は知ってた。」

「な、何を言っているのナタリー……。分かったわ、貴方が何に怒っているのかを聞きましょう。」

「私が何故こんなにもブチギレているのか分からない?生まれて初めてこんな気持ちになった私の気持ちが?」

「……ごめんなさい。本当に分からないの。」

ナタリーはレイスに詰め寄ると顎を乱暴に掴み顔を間近に近付けた。

「……ッ……!?」 

今にも唇が触れそうな距離で睨む訳でも無くじっとレイスの瞳を覗き込むナタリー。
レイスの頬に一筋の汗がゆっくりと流れる。

「愛しい人が、下品な女に良いように慰み物にされているのが許せないの。あろう事かそれを自ら望んでいるのが許せないわ。絶対にね。」

「い、愛しい人……?慰み物……?何を……言っているの?お願い……説明して……。」

「……本当に何も分かってないのね、レイス。貴方のその鈍感なところも堪らなく好きよ。」

いつもの声のトーンの何倍も低い。
レイスには彼女の言っている事が全くもって理解出来ない。

「分からないのであれば教えてあげる。最近、あの糞女とやけに仲良くしてるわよね?異常な程に。」

「最近仲良くしてる糞女……?」

「そうよ。靴で踏んだガムを平気で口に入れるような下品な女。」

「ランパートの事ね?」

「えぇそうよ。あの女と貴方の最近のスキンシップは目に余るものがあるわ。違う?」

「ランパートとの最近のスキンシップ……。」

レイスは目を閉じる。
どうやらナタリーをここまで怒らせている原因は自分とランパートの行動にあるようなので、最近のランパートとのやり取りを思い浮かべてみた。

『聞いてランパート。』

『おっ、ブラジーじゃん。なんだい急に。』

『さっき自分で自分をくすぐってみたのだけど、何も感じなかったわ。私は唯一の弱点であったくすぐりを克服出来たのかもしれない。』

『ぶふっ!馬鹿だねぇアンタは。』

『試してみて頂戴。ほら。』 

『こちょこちょこちょ~』

『あはははっ!な、何故っ……おかしいわ……』

『当たり前だろぉ?こういうのは自分でやっても効かないんだよ。克服どころか、まだまだくすぐったがり屋さんだねぇぇ?お、ば、さ、ん。』

『くっ……』

ここまで思い出したがナタリーの逆鱗に触れる要素が見当たらない。

「ナタリー、やっぱり私は貴方を怒らせるような真似はしていないわ。勿論ランパートも。」

不機嫌そうに腕に組みジトっとレイスを見つめるナタリーははぁ、と大きくため息をついた。

「あのね、レイス。何が悲しくて自ら望んであの女にくすぐってくれと頼むのかしら?」

「ランパートには私がくすぐりに弱い事を気付かされたわ。それ以来私はくすぐりに強くなりたくて彼女に頼んでいたのよ。」

「……何で私じゃないのよ?」

「え?」

「何で私じゃないのかって聞いてんのよぉぉぉぉ!!!!」

「ッ!?」

突然の怒号にレイスの身体はビクッと大きく跳ねた。
こめかみの血管が浮かび上がり瞳孔がかっぴらいたナタリーは止まらない。

「くすぐりに強くなりたいですって?なら真っ先に私のところに来なさいよ!私ならいくらだってくすぐってあげるのに!」

「えっ」

「あろう事かあんな女に身体を許すなんて。駄目よ、あの卑しい女は貴方を抱く事しか頭に無いに決まってるわ。」

「えっ、えっ」

「私はねぇレイス。貴方と出会った時から貴方を抱きたいと思っていた。」

「えぇっ!?」

「あの女が貴方のエロチックなボディをまさぐっていたと思うと嫉妬で血液がグツグツと煮えたぎりそうよ。」

「……ナタリー……?」

「貴方はドMなの?そうなのね?レイス。許せないわ。私以外の人間で性的な欲求を満たしていたなんて。許せない!!!!私は出会った頃からこんなにも貴方を求めているというのに!!こんなにも!私の想いは!!私の蓄電池の容量はもう限界なのよぉぉー!!!」

「……。」

「今から貴方をくすぐるわ。」

「あの……えーっと……」

「泣きながら言うでしょうねぇ。ありがとうナタリー私には貴方しかいないわ、って。」

「ちょ、ちょっと待ちなさいナタリー。どうしてそうなるの?私達、親友よね?」

「親友という関係は今日で終わりよ。」

「なんですって?」

「恋人になるのだから。愛してるわ、レネイ。やがて二人は夫婦になるの。貴方がどうしても子供を望むのなら考えがある。パスファインダーを養子に迎えましょう。この際レヴナントでもいいわ。」

「……。」

「でもそれはまだ先の話。先ず貴方には私の虜になって貰わないと困るわ。くすぐられて悦ぶ三十路の変態が。貴方を本当の意味で満足させられるのは私以外いないって事、貴方には分からせないといけない。あぁ……今日は良い日になりそう。ようやく私の想いが叶うんですもの。」

「」

最前線の戦闘兵として百戦錬磨のレイスが初めて戦慄した瞬間だった。
完全にナタリーの情緒がおかしい。
言葉の内容がまるで何一つ理解出来なかった。
昨日までナタリーは小柄な金髪のショートボブの笑顔の可愛い女の子で、22歳という若い年齢でありながら天才的な科学者で、天真爛漫で少しドジっ子でもあった彼女はレイスの数少ない友人の一人であった。
しかし今は目の前にいる彼女がただただ怖い。

「今日の私は絶好調♪なんてねっ。」

「や……やめて……私は変態なんかじゃない!」

恍惚とした表情で頬を赤らめるナタリー。
レイスの恐怖心を煽っているのか、わきわきと細かく動かす指をレイスの視界入れながら、ゆっくりと近づける。

ナタリーの指が腕の付け根に触れた途端、レイスは生唾を飲み込んだ。

「……んっ……!」

肘掛けに拘束され完全には閉じれない腋を、小さな五本の指がさわさわと優しく蠢く。

「くっ……んぁっ……!くくくっ……!」

唇を固く結ぶも、本人の意識とは別にレイスの口から吐息混じりの甘い声が漏れた。

「ナ……タリぃ……っ」

綺麗に手入れされた腋の表面を撫でる決して強くはない刺激。

「ぁぁあっ……く、くすぐっ……たい、わ……ほんとにっ……むりっ……」

「レイス……なんて顔をしているの。腋をこちょこちょされただけでこんなにもいやらしい顔をするものなの?」

「う、るさいっ」

「こちょこちょこちょ~……ほーらレイスぅ?貴方の好きなこちょこちょよ~?」

「くっはははっ……だ、だまりなさ、くくくっあはははっ!あはははははっ!」

撫でるだけの指が本格的にわらわらと動きだした。
僅かに湿った腋の表面をナタリーの指が意地悪く責め立てる。
こしょこしょこしょ、と爪の先で腋の皺をほじるようなくすぐりに溜まらず笑いが混み上げた。

「あはははっな、なたりぃひひぃひひひひひ!あはははははっ」

「私ばかり貴方に夢中なのが悔しい……。けどそんな事どうでも良くなるくらい今の貴方は……扇情的だわぁ……。」

「ひゃめっ、ひゃあぁははははははっ!」

「もっともっと笑ってぇ?」

「んぁあッ!?あぁっははははははっ!あははははははっ!」

ナタリーは指をこしょこしょと動かすくすぐりから一転、胸の横辺りに四本の指を突き立て、強めのくすぐりへと変えた。

「きゃぁはっはっはっはっはっはっー!くすぐ、たぃぃひひひひひひひひぃ!」

クニュ、クニュ、と皮膚が踊る度にレイスは溜まらず首から上を立てに振り横に振り抵抗する。

「きゃぁはははははははははっ!あーっははははははははははははっ!」

レイスを舐めるように見つめるナタリーの表情はとて嗜虐的で、笑えば笑う程、悶えれば悶える程彼女を悦に浸らせる事は容易に理解出来た。
しかし腋の下から絶え間なく送られる刺激はレイスにそんな配慮はさせずに爆笑を誘う。

「素敵よレイス……。貴方は私の物。」

「やめへぇぇっひぃははははははははははははははははははっ!なだりぃぃ!こんなのむりよぉぉはははははははははははは!」

「こんな姿をランパートに晒すなんて……レイス、貴方は誰にも渡さない!」

ナタリー五本の指を突き立てると、レイスのあばら骨をこりこりとくすぐり始めた。

「ぎゃぁはっはっはっはっはっはっはっ!ぞれいやぁぁぁーっ!」

無駄な肉が乗っていないレイスのあばらに絶妙な加減で、こりこりとまるで蜘蛛が這うかのように指先を這わせる。

引き締まった腹筋やわき腹をぐりぐりと指圧しも揉み解したと思えば、人差し指で肢体のあちこちを突き回す。

「あぎゃははははははははははははははははははっ!!あーっはははははははははははははははははははははははははははっ!」

「クールな貴方も良いけれど、こんな風に私の手の中で情けなく悶えるレイスも愛しいわ。」

「あぎゃははははははははははははぁっ!」

「ずぅぅーっとこうして貴方に触れたかったのよ?筋肉質な腹筋を揉まれるのはどう?わき腹をもみもみされるのはどう?腋の下をぐりぐりされる気持ちは?柔らかい太腿……赤ちゃんみたいな足の裏を私の指に犯される気持ちは?」

あらゆる手を尽くしてレイスを身体にくすぐったい刺激を送り込むナタリー。

レイスの瞳は涙で濡れ、身体中を汗に濡らす。

そんなレイスの姿を眺めている内に、今まで味わった事が無い程胸の高鳴りを覚えたナタリー。
頭が蕩ける様な感覚と下腹部の辺りが疼く様に熱くなるのを感じた。

「あぁんッ……レネイ……私のレネイ……!」

一通りレイスの身体を弄んだナタリーは、懐から小さなリモコンを取り出した。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

漸くくすぐりから解放されたレイスは息を荒々しくさせ肩を揺らす。
狂ったような指に散々笑わされ、視界が霞んだ様に見える。

身体からナタリーの指が離れた後でも全身に痒みにも似た感覚がぞわぞわと走り続けた。

今はまだ頭が良く働かないが、やっと地獄の様な時間が過ぎた事だけは理解出来る。一先ずレイスは安堵した。
 
「決めたわ、レイス。」

「……はぁっ…………はぁっ………良い加減にして……ナタリー……。」

「貴方が私への愛を誓うまで電流を流そうと思っていたけど辞める事にする。」

「……そんな事で誓った愛は本当に愛なのかは甚だ疑問だけどね。」

「その椅子から流れる微量な電流は貴方の脳を簡単に催眠状態に出来るわ。」

「……だからそうじゃないわ。私の事が好きなのは分かったから、ちゃんとデートして、良い雰囲気になってからちゃんと告白しなさい。」

「催眠状態になったレイスに私はこう囁くの。レネイ・ブラジーはナタリー・パケットにこちょこちょされるのが堪らなく好きになる。ナタリー無しには生きていけない身体になる、って。」

「……はぁ?」

「10歳も歳の離れた小娘にくすぐられて恥ずかし気も無く笑っている貴方は本当に魅力的だったわぁ。」

「……さすがに冗談よね?」

「ここからが本番よ。愛してるわ、レネイ。」

ナタリーはリモコンをスイッチを押した。

愛しそうにレイスを眺めると、ニヤリと笑った。

「なあブラジー。」

「何、ランパート。」

「最近くすぐってくれって頼まなくなったじゃんかよー。」

「……っ!!集中しなさい。今は試合中よ。」

「良いじゃん。周りに誰も居ないし暇なんだからさー。あっ、ドローンが飛んできた!」

「クリプトのドローンね。EMPで詰められたら厄介だわ。クリプトのデュオの相方はオクタンだったかしら?」

「いーや大丈夫。今回のクリプトの相方はワットソンの筈だ。距離的にも直ぐには詰めて来れないよ。」

「えっ」

「へっへー。覗き魔みたいな事しやがってクリプトめ。いっちょ見せつけてやるかぁ。そーれこちょこちょこちょ~」

「ちょ、あははははっ」

「なんだ、相変わらず弱いなぁブラジー。」

「……虚空を使うわ。」

「え、おい!ブラジー!そんなに焦って何処行くんだよ!ブラジーってばぁ!」

・・・

「貴方に特別に作って貰ったドローンの操作にも少しずつ慣れてきたわ。メルシー、クリプト。」

「良いんだワットソン。それで、敵の部隊は見つかったのか?」

「えぇ。試合中にも関わらずイチャついてる泥棒猫達のパーティーを見つけたわ。」

「泥棒猫……ローバだな。」

「いいえ。私の恋人を寝取ろうと企む泥棒猫よ。あいつはじっくりゆっくりと殺して死体撃ちするわ。」

「えっ」

「もう一人の子猫ちゃんには、今夜きつーいお仕置きが必要なようね。」

「」


お名前:

コメントはありません。 Comments/ワットソンとレイス