このは&クロエ→フィア
「うん、いい感じ」
おたまを口に運び、誰もいないキッチンで一人頷く。
今日の鶏肉の煮物は、中々にいい味に仕上がった。
ただ…。
フライパンの中身を見て、少し戸惑う。
「やっぱり、少しお肉が多いですかね…」
こんなこと、今まであんまり気にしなかったのに。
あの子が変なことを言うから。あの、羨ましいくらい細い足のあの子が。
一人葛藤に暮れる私は村正このは。いとこ、という関係となっている夜知春亮君のお家の離れに住んでいたのですが、とある事情によりまた本邸に戻ってきたのです。
ここしばらくのことを思い出しながら、再びの味見。うん、満足。
「ひゃっ!?」
わき腹におかしな感じ。おたまを落としそうになりながら、思わずビクッと反応してしまう。
「ウシチチ、少し…いや、かなり肉が多い料理だな。そんなんだからウシチチはいつまでたってもウシチチなのだ」
背後から私のわき腹を両手で掴んでいたのは、さっきも出した、細い足のあの子。フィア・キューブリックという名前を付けられた、親戚という関係になっている子。
恨めしそうににゅっとわき腹あたりから顔を出してくる。
「ちょっ…あなたっ!文句があるなら食べないでください!どうせまともな料理なんか作れないくせに!」
いつもならこんな幼女に対してムキになんかならないのに、肉とか何とか言われると思わず反論してしまった。
「なっ!なにおうっ!肉の肉による肉のための料理しか作れぬウシチチには言われたくないわっ!」
2人してマジな顔して向かい合う。バチバチという音は幻聴だとは思えない。
「だいたいっ!」
ふにっ
「ひゃんっ!」
そう言いながら、彼女は私のわき腹をふにふにと揉んだ。
「こんな料理ばかりだからこんなに肉が付くのだ!」
どうやら彼女としては単純に私のコンプレックスを主張したいだけらしい。それだけのはずなのにっ…。
「くっ…くふっ…。んぅっ!ひゃぁっ…!」
耐え難いくすぐったさは、私を強く襲う。
揉むという刺激より、彼女の握力と手の大きさの関係か、刺激が弱い。いっそ強く揉んでくれたら、痛いと感じただけなのに。
漏れる声を抑え、体の動きを必死に止める。
片手にはおたまを持ったまま、おなかの前で手をクロスさせてくすぐったさから逃れようとする。
「ん…?あぁ、なるほど。もしやお主、くすぐったいのか?」
そう言いながら、私の真正面に回り込み、にやにやとした顔で思い切りわき腹をくすぐってきた。
「ちょっとっ…!ひゃぁっ!んっんんんんんっ!きゃっははははっ!」
執拗なわき腹責めに、思わず笑い声をあげてしまう。
「ふ…ふふ…。これはクロエを呼んでこなくてはならないな。淑乳同盟として、一緒に楽しまなくては…」
にやにやしながら、私のわき腹に這わせる指を止める気配はない。
辛いけど…、何だかんだで結局子供。余りに単純な指の動きには、フェイントもなにもありはしない。少しずつ、馴れてきた。
「くふっ…ふふふっ…」
油断させるために、くすぐったい演技をする。自慢じゃないけど、演技とかは苦手じゃない。
「くすぐり、か。やられる方は辛いが、悲鳴も血も流れない。誰も傷つかないいい方法かもしれんな。」
「ええ、そうです…ねっ!」
セリフに合わせて思い切り力を込めながら私をくすぐっている手を強く掴む。戸惑いが、必死に動く腕から十分伝わってくる。
「やられる方は辛い、ですか。まぁ、あんなくすぐりを受けたらその実感も沸くんでしょうね!」
憎らしいくらい軽い体は、私が思いきり力を込めれば浮き上がる。簡単に表せば、今の体勢は高い高いに似ている。相違点は、掴んでるのは脇じゃなくて腕。大の字のように広げられる体。
「なっ…?!はっ、はなせ!ウシチチっ!はなせぇっ!」
自由な足をバタバタとしている。彼女の足が短いとは言わないけど、私の腕の長さと比べたら身長差が如実に現れる。当然、私の腕の方が長いわけで。彼女のばた足が私に当たることはない。そんななか、のほほんとした声が響く。
「おやおや、楽しいことをしちょる」
おそらくこの子の叫び声を聞きつけたのだろう、人形原黒絵がてこてこと台所に入ってきた。長い髪を自由自在に操り、子供のような見た目にぼーっとした眠たそうな目を持った人形のような女の子。
「く…クロエっ!助けてくれ!ウシチチが卑劣にも私を拘束しているのだ!」
「失礼なことを言いますね。先にくすぐってきたのはそっちでしょう?自業自得です」
バッサリ切るが、黒絵さんが反応したのはそこじゃない。ある一つのワード。
「もしかして…くすぐりっこしちょったんか?」
くい、と首を傾げる姿はただの子供。それでも、忘れてはならない。この髪を自由自在に操り、家に帰ってくるやいなや彼女をくすぐりまくっていたのは、他でもないこの子だ。私がさっき彼女に言った、あんなくすぐり、というのはその時のことを表した言葉。さっき私がされたみたいにただわき腹をくすぐられただけではない。ふさふさの髪の毛を使って、首、腋、わき腹、おなか、臍周り、太股と至る所をくすぐられたのだ。
「えぇ、そうなんです。そうだっ!黒絵さんも参加しませんか?」
「なっ!なにを勝手なことを!ウシチチっ!丸見えの演技をするなぁっ!」
じたばたと動かれると、いい加減腕が疲れる。拘束役としても、ここまでの適任はいない。何としても手伝ってもらいたい。
「ふぃっちーがいやがっちょる。うちは参加しちゃいけないかな」
「そっ…そういう意味ではないのだ!」
「ほらほら、あの子もそう言ってますから。ぜひぜひ」
少し沈んだように見えた黒絵さんを気遣ってか、思わずフォローをしてしまったらしいが、絶好のチャンス。ここぞとばかりに引き入れる。
「私は腕が二本しかないので、くすぐれないんです。拘束、おねがいしていいですか?」
「おー、任せて。『カオティック忠盛』」
彼女のフォローで、気を取り直せたのか、やる気で髪を伸ばしてくれた。本来なら私の腕なんかよりも柔らかなその髪は私の手よりも遙かに強い拘束力で彼女をきつく縛り上げる。両手両足を広げるように拘束され、きれいな大の字を形作る彼女の体。
「うぎゃああああああっ!?クロエ!裏切ったのか?!」
「裏切ってない。ただのお遊び。うちはふぃっちーのこと大好き。でも、ふぃっちーがくすぐられてるのも大好き」
「あぅ…。ウシチチっ!」
純粋にいわれてしまえば、思い切り怒鳴る気も萎えてしまったのだろう。とはいえ、どこかに怒りをぶつけなくてはイライラする。矛先は私、ということだろうか。たいがい子供。そしてバカな子。今から責め手に回る人に、乱暴な口を利くなんて。
「ウシチひゃっ!?」
短いスカートからむき出しの、白くて細い太股を軽くなぞる。それだけなのにいい反応をしてくれた。それに気をよくして、太股を触れるか触れないか、絶妙なニュアンスで触り続ける。
「うひっ…ひぃっ…。んあぁっ…あぅぅっ…」
笑い出すような刺激ではないからか、喘ぎ声のような声を漏らし続けている。
「このさん、うちは参加しちゃだめ?」
「まぁ、くすぐる人数はそろえた方がフェアでしょう。拘束だけでも、助かってますよ?」
「縛り上げてる時点でっ!ぜんぜんふぇあぁぁっ!じゃんっ!ないだろうっ!」
威勢のいいセリフと語気と、情けないような喘ぎ声。mixされると大変間抜けに見える。さて、そろそろ本気でいきますか。
「ひゃうっ!?いひゃあっはははははははははっ!くひゃははははははははっ!やっ!やめろぉっほほほほほほほほっ!ひゃはははははははっ!うしっ!たちちぃっひひひひひひひひ!ふひゃひゃひゃひゃひゃっ!やめぇへへへへへへへっ!」
何にも守られていないわき腹を指を縦横無尽に走らせてめちゃくちゃにくすぐる。薄いお腹がピクピクと音を立てるように反応していた。
必死に手足を動かそうとしても、そう簡単に解ける拘束ではない。結局その努力はただただ、彼女の体力を奪うだけ。私は指をおへその周りで遊ばせてみたり、膝にやるように開いて閉じてを繰り返してみたり、わき腹をもんだりとやりたい放題。特にわき腹は絶妙な力加減で揉む。
「きっ!きしゃまぁっはははははははははははははっ!ねにぃっひひひひひひひっ!もってるだろぉっひゃははははははははははははっ!」
「えー?なんのことですかー?」
持ってるに決まってる。わき腹から脇の窪みに指を移動させ、わしゃわしゃとくすぐりまくる。少し汗ばんでいて、滑りが良くなっていた。肉があまり付いていない窪みは、きれいに、大きく凹んでいた。
「やぁぁっ!?しょこはぁっ!だっめぇっへへへへへへへへへへ!あひゃひゃひゃひゃひゃっ!ひぃぁっははははははははははははははっ!のっ!のりょうじょっほほほほほほほほほっ!」
触れたとたん大きな声を上げて反応した脇の窪み。自分の顔の口角が上がることを自覚しながらも、自重する気はまるでない。存分に、愉悦に歪んだ顔をしよう。ひたすら、細かい刺激を与え続ける。
「ひゃっはははははははははははっ!きゃぁっはははははははははっ!あっ!あっははははははははははっ!やっ!やめてくれぇっへへへへへへへへへ!いっひひひひひひっ!わっ!わるかっちゃぁっはははははははははは!」
そろそろ限界のようだった。涙をボロボロとこぼし、口をだらんとさせ、目の焦点も合わなくなってきている。
「このさん、まだやる?」
不満げな顔をして拘束役のみに徹してくれていた黒絵さんに尋ねられる。どうやら、同じことを考えていたらしい。
「そろそろ、やめてあげますか。春亮君が帰ってきたらびっくりしちゃいますからね」
そう宣言はしたものの、名残惜しくなり全身を思わず一撫で。それにすらも「にゃぁぁっ?!」と叫んでいた。かなり敏感になってしまっていたらしい。
「うっ…うしちちぃっ…!」
拘束を解かれ、自由になった体を回しながら恨めしそうにこちらを見る彼女に、涼やかな顔をしてみせる。
「くすぐりっこ、ですよね?お互い様です」
「なにおうっ!あきらかに平等ではないだろう!拘束付きの時間延長!全然平等とは言えん!」
「まーまー、二人とも。落ち着いて」
仲裁に入った黒絵さんが、いつものあの瞳で私たちを交互に見る。そして、成立する私とあの子のアイコンタクト。
「一人、まだいたなぁ…?」
「えぇ、不平等ですよね…?」
新たな怒りの矛先を見つけたあの子。責任転嫁先を見つけた私。
二人の目的が一致する。
「覚悟っ!!」
…どんな拘束をしようとしても、逆にくすぐられたなんてことないですから!あの髪でオール返り討ちになんて、あってませんからっ!私も!あの子も!
「二人とも、まだまだ甘い」
「もうっ!やだぁっははははははっ!くろえっへへへっ!」
「ちょっ!まっ!きゃはははははははははははっ!」
終わり
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