おくすり

Last-modified: 2020-11-08 (日) 03:52:54
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【おくすり】

健太は昨日の体育の時間に足を怪我してしまっていた。マラソンの最中に転んだとき変な風にひねってしまったのだ。
とりあえず応急処置をして一晩安静にしてみたが、朝起きると足首から土踏まずにかけてと、股関節の部分が昨日よりも痛くなっていた。
「一応、診てもらったほうがいいわね」
お母さんに連絡してもらい、今日は小学校を休むことになった。そして車で連れられて接骨院に来た健太。
そこは小さな医院だった。
先生は若くて綺麗な女の人だった。
「健太君は何年生?」
優しく問いかけられて、健太はうつむき加減に答えた。
「2年生です」
「どこがいたむのかな?」
先生は座椅子の上で、そっと健太の足に触れてきた。
(く、くすぐったいなあ…)
太ももを撫でられたとき、健太は危うく声を上げそうになった。
「えっと、足の、ここのあたりと、ここのところとかが痛いです。」
たどたどしくも、健太が指をさしながら答える。
すると、先生の手がそのあたりを撫で回すようにしてきた。健太は自分がくすぐったがりだとは思っていなかったが、このときはその手の動きが無性にくすぐったくて仕方が無かった。健太はぎゅっと椅子のクッションをにぎってくすぐったさに耐えていた。
(く、く、…早く終わらないかな…)
それに、お母さん以外の女の人にこんなに触られることなんて余り無いので、とても恥ずかしい気持ちだった。
けれど、ほんの1分ほどで先生のくすぐったい手の動きは止まったので、健太はホッとした。
レントゲンを取るなどしたあとで、先生はお母さんに向き直って健太の足の状態を説明し出した。難しい用語もあったので健太には詳しく分からなかったが、あんまり深刻なようではないことは分かった。
「今日のところはお薬だけ処方します。とりあえず安静にして様子を見てください。健太君、お大事にね」
「ありがとうございました」
健太とお母さんは先生にお礼を言って診察室を出た。

【おくすり・2】

翌日から健太の足は回復していた。その日は普通に登校できそうだったが、朝、目が覚めた健太は内心憂鬱だった。
今日もまたマラソンの授業がある。正直、健太は長距離を走るのが苦手だった。みんなにどんどん抜かれていくし、自分に体力がないのが良く分かってしまうからだ。
「いやだなあ。今日も休んじゃおうかな…」
布団の中で何気なくつぶやいたが、それは思いのほか現実味のある選択肢に思えた。
(そうだ、まだ治ってないことにしよう。先生は『とりあえず様子見』って言ってたし、別にバレないだろ)
健太は悪魔のささやきに乗ってしまった。

再び接骨院にやってきた健太。今日はお母さんはお勤めがある日なので、昨日よりも早い時間に来た。
「じゃあね。終わる頃、時間をつくって迎えに来るわ」
お母さんは健太を置いて職場に向かった。忙しいお母さんの姿を見て、健太の良心がチクリと痛んだ。だが、本当のことは言わない。健太はお母さんに、ただ頷くだけに留まった。
健太は順番を待った。しかし、この日は昨日と違ってやけに呼ばれるのが遅かった。健太は本棚においてあった漫画本を読みながら黙々と待ち続けたが、待合室の患者さんの数は増えては減り、増えては減り、ふと健太が漫画本から顔を上げると、待合室に居るのは健太だけになっていた。
受付の窓の向こうにも人の姿が無い。時刻はもうお昼近くなっているので、食事に行ってしまったのだろうか。
(おかしいなあ。先生、僕の番を忘れちゃったのかな)
さすがに奇妙に思い始めた矢先、
「健太君。おまたせ」
と診察室から先生が顔をのぞかせた。昨日と同じ、あの綺麗な女の先生だ。
「ごめんねぇ、待たせちゃって。さ、おいで」
待ちくたびれた健太は、呼ばれるまま先生のところへ駆け寄った。あまりにも待たされたので、ついうっかり、自分が足の悪いフリをしなければならないことを忘れてしまっていた。
「健太君。足、普通に歩けてるみたいだね。」
「えっ?」
言われてから気がついて、健太はドキリとした。まずい、と思って必死に言い訳を考えようとしたが、そのとき先生は別に怒っていないようだった。

【おくすり・3】

かなり気まずい思いのまま診察室に入ってくると、やはり誰も居なかった。
「はい、そこに腰掛けてね」
なんとかごまかさないと。健太はとりあえず言われるままにその椅子に座った。
座ってから健太は気がついたが、それは奇妙な椅子だった。
座る部分がV字形をしていて、ひらいている部分に両足を乗せるようだ。健太が座ると、先生が手早く、健太の太ももと脛のあたりを黒いベルトのようなもので固定してしまった。そのベルトは椅子の座る部分の裏側から回されているようだった。
健太は両足を開いたまま、それぞれ2箇所ずつを固定されて、太ももを閉じることの出来ない格好にされた。また、背もたれの背面からもベルトが回され、両手とともに胴体を固定されてしまう。
先生はテキパキと手際がよくて、それはあっと言う間のことだった。
「せ、先生…、何なのコレ…」
「健太君はどうやらとっても重い病気みたいね。このままじゃ、一生マラソンできなくなっちゃうかもしれないくらい、悪~い病気よ」
「え…?」
「でも安心してね。これから先生がよく効くマッサージをして直してあげるから」
言いながら、先生はハンドクリームのようなものを手のひらにたっぷりつけて、それをまんべんなく擦り合わせていた。
くちゅ、くちゅ、というその音が健太には何だかエッチな響きに感じた。
そしてかいだことの無い薬品の、奇妙なにおいが立ち込める。
そして間もなくして、先生の両手が健太の太ももらへんを這ってきた。
「きゃはっ! あはははっ!」
健太はくすぐったさに声を上げた。声変わり前の男の子の高い声が、診察室に響いた。院内には2人以外、どうしてなのか誰も居おらず静かなので、自分の笑い声が余計に大きく感じる。
クリームをつけた先生の手はぬめぬめしていてよくすべり、昨日触られたときよりもずっとくすぐったかった。
その指がしだいにくねくねした動きになって、健太の太ももをこちょこちょと上ってくる。
「あはっ! あはははははは~~~!! やめてっ、やめてよ! 先生! やめっ~~!!」
健太がぶんぶんと頭を振りながら激しく体を動かすので、拘束椅子はぎしぎし鳴った。けれど、たかが小学2年生の男の子の力では抜け出すことなんてできない。
先生もくすぐったい手の動きをやめてはくれなかった。

【おくすり・4】

「ふふふ。くすぐったい? ダメよ、我慢しなきゃ。お薬塗ってるんだからね」
「う、嘘だよ。あっ、あはは! くすぐってるじゃんかっ」
「嘘じゃないわよ? こうしてマッサージしながらよーく塗りこんであげないと、お薬が効かないんだから」
先生がいっそう早くこちょこちょすると、健太の小さな体がびくっとなった。
「ひゃはっ、あっははははは!!」
「ふふっ。健太君、男の子でしょ? それにもう2年生なんだったら、お薬塗られるくらい我慢できなきゃ」
「薬なんかっ、…もういいよぉっ! あははは!! く、苦し…っ! あひゃ、あはははは~~!!」
先生は健太の股関節に程近い部分をねっとりとくすぐりながら、敏感な内股周辺に何度も何度も薬を塗りつけていた。そして今度はそこを軽く素早く引っかくような感じにくすぐってきた。
「ぎゃはひひっっ!!」
健太は体を揺らしたが、バンドは全く外れず、太ももを閉じることは出来ない。
「くひひっ、な、なんでこんなっ、あはぅっ! 縛ったり、するのぉっ!? くふふっ、ひひひひっ! ひ。酷い…」
健太は涙を浮かべながら訴えた。
でも先生はくすくすと微笑みながら答えた。
「何言ってるの? 酷いのは健太君の病気なのよ。絶対安静にしてなきゃダメなの。健太くんがくすぐったいなんて言わないで我慢できるなら別だけど、この調子じゃ無理よね。」
健太の顔を覗き込みながら言うと、先生は少し激しく指を動かしてくすぐってきた。
「あっ! あはっ、あははははは!! きひゃははははははは~~!!」
「ほーらね。だから仕方なくこうしているのに、文句を言うなんて。じゃあ、今度は別のところをマッサージしてあげるわ。足の裏の土踏まずなら大丈夫でしょ?」
するすると先生のくすぐったい手つきが健太の足元へと移動してきた。そこは健太の一番苦手な場所だった。
「ぎひぅ!! あぎゃひゃひひひひゃははははは~~!!」
最初は撫で付けるような手つきで薬を塗りこんでから、先生は足の裏を細かく引っかくようにしてこちょこちょした。クリームが薄くなったらなんども付け直した。そのたびにクチュクチュとエッチな音がして、くすぐったいにおいが充満してきた。健太の足の裏がクリームでねとねとになっても何度も何度も繰り返しくすぐった。
「いぎぃひひひぎゃはははははは~~!! ごめんなさい!! ごめんなさい先生!! ぎゃひひひっ! あはははは!! うぎゃははははははは~~!! ご、ごめんなさいぃぃ~~~!!」
「何を謝ってるの? 健太君は病気なんだから謝る必要なんかないのよ。それに、あなたのお母さんも病気のことはご存知みたいだし、『徹底的に治療してあげてください』って頼まれちゃったんだもの」
「そ、そんな……!」
健太は自分が甘かったことを、くすぐり地獄の中で後悔した。
(これはおしおきなんだ。完全にばれていたんだ。仮病を使ったことも、僕がくすぐったがりなことも。お母さんにも。先生にも。全部。…全部)
あまりにもくすぐったすぎるクリーム塗れの両手は、その後も健太に「ごめんなさい」の声を絞り出させた。何度も、何度も。

その後、『病』が完治した健太は、二度と同じ病気を発祥することは無かったという。
しかしそれからもずっと、健太はこの接骨院に通うように先生に言われていた。予防薬として、定期的にあの薬を塗ってもらうためである。

おしまい。


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  • 笑顔 -- 2021-01-03 (日) 14:20:57

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